正午の殺人(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
銃声が聞こえない作家の死
- ミステリ
- 文字数
- 13,888字
- 読了目安
- 約28分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
新聞記者の文作が日参する流行作家の邸で、正午に作家が全裸でピストル死体となって発見される謎を扱った探偵小説。自殺か他殺か、鳴り続けたラジオ、二度かかった電話、美貌の婦人記者という容疑者たちと、旧友の巨勢博士の推理が組み合わさる。初出は「小説新潮」第7巻第10号(1953年8月)。
あらすじ
新聞記者の矢部文作は、流行作家・神田兵太郎の連載小説の原稿を受け取りに、毎日郊外の神田邸に通っている。その日、電車で若く美しい婦人記者の安川久子と行き合い、邸に着くと同棲相手のアケミがサンドウィッチとコーヒーでもてなす。神田は唐手の稽古をしたあと、シャワーを浴び、久子を居間へ通せとせきたてる。文作は正午のサイレンとともにアケミと邸を出るが、午後三時、社に戻ると神田が自殺したが、他殺の疑いもあるという。居間にいた久子は銃声を聞かなかったと言い、ラジオが鳴り、電話が二度鳴ったことも不審だった。容疑者は久子、アケミ、書生の木曾の三人となり、新聞は久子を犯人視する。文作は旧友の巨勢博士を訪ねて意見を求める。巨勢博士は、文作が神田の声やシャワーの音を聞いただけで、姿を見ていないことを指摘し、「死人と話のできる人が犯人」だとテープレコーダーの利用を示唆する。文作の後日の奮闘により、アケミの犯行が暴かれる。アケミは、神田が久子に心を動かしはじめたのを見破り、神田を殺して全財産を乗っ取ろうと計画していた。女中と書生を外出させ、文作の到着の一時間も前にバスを浴びた神田を殺し、録音を使って正午以後の殺人と思わせたのだった。文作の努力は、気の毒ながら、楚々たる美女との交渉を発展させることはできなかった。
登場人物
- 矢部文作 新聞記者。神田邸に原稿を取りに日参する
- 神田兵太郎 六十歳の流行作家。唐手に凝っている
- 毛利アケミ 神田と同棲する元素人ストリッパー
- 安川久子 二十一、二歳の美貌の婦人雑誌記者
- 木曾英介 神田邸の書生。二十七歳
- 巨勢博士 文作の旧友で、推理に長けた人物
冒頭部(原文より)
郊外電車がF駅についたのが十一時三十五分。このF行きは始発から終発まで三十分間隔になっていて、次の到着は十二時五分。それだと〆切の時間が心配になる。 「あと、五十日か」 文作は電車を降りて溜息をもらした。流行作家神田兵太郎が文作の新聞に連載小説を書きはじめてから百回ぐらいになる。約束の百五十回を終るまでは、毎日同じ時間にFまで日参しなければならぬ。駅から神田の家までは十分かかった。
「正午の殺人」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
文作の後日の奮闘によってアケミの犯行が発かれた。彼女は神田氏が安川久子に心を動かし始めたのを見破って以来、神田氏を殺して全財産を乗ッとる計画をねっていたが、神田氏が久子に呼びだしの電話をかけたのを知って女中と書生を外出させ文作の到着の一時間も前にバスをあびた神田氏を殺しておいて、かねて用意のテープレコーダーで正午以後の殺人と思わせ、巧みに自分のアリバイをつくったのである。 文作の折角の奮励努力も、気の毒ながら楚々たる美女との交渉を発展させることはできなかった模様である。
「正午の殺人」坂口安吾(青空文庫)
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