将軍(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
日露戦争の将軍と兵
- 歴史
- 社会
- 文字数
- 14,853字
- 読了目安
- 約30分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
日露戦争の戦地を舞台に、軍司令官N将軍をめぐる四つの断章を重ねた短編。突撃を前にした兵、スパイ嫌疑の中国人、陣中の余興、大正の家庭の父と子という、場面も時代も異なる四つの視点から、将軍と戦争の姿を描き出す。N将軍は乃木希典を連想させる人物。本文には伏せ字(×)が残る。
あらすじ
一、明治三十七年十一月、旅順の松樹山攻撃に向かう白襷隊。酒の勢いで毒づく堀尾一等卒、死ぬのが役目だと言い返す江木上等兵。軍司令官N将軍に手を握られた堀尾は肉弾になろうと決心し、江木は戦死、堀尾は突撃の最中に発狂して万歳を叫ぶ。二、翌年三月、田口一等卒は捕らえた二人の支那人を、間諜の疑いで殺す役を命じられる。靴の底に隠された地図が見つかって嫌疑は確定し、田口は刃を突き立てられず、通りかかった騎兵の曹長が一人を斬って、将軍は見事だと褒める。三、五月、陣中の余興で、将軍は下品な芝居を止め、人情劇には涙を流す。参謀の穂積中佐は、将軍に軽い侮蔑と好意を同時に覚える。四、大正七年、中村少将は、大学生の息子と将軍の最期の写真をめぐって語り合い、世代の違いを感じる。
登場人物
- N将軍 軍司令官。人懐こい笑顔と峻厳さを併せもつ
- 堀尾一等卒 皮肉屋の兵。白襷隊に選ばれる
- 江木上等兵 もと小学校の教師。おとなしい兵
- 田口一等卒 もと紙屋の兵。間諜を連れ出す役にあたる
- 穂積中佐 将軍に従う軍参謀
- 中村少将 当時は軍参謀の少佐。大正七年に息子と将軍を語る
冒頭部(原文より)
明治三十七年十一月二十六日の未明だった。第×師団第×聯隊の白襷隊は、松樹山の補備砲台を奪取するために、九十三高地の北麓を出発した。 路は山陰に沿うていたから、隊形も今日は特別に、四列側面の行進だった。その草もない薄闇の路に、銃身を並べた一隊の兵が、白襷ばかり仄かせながら、静かに靴を鳴らして行くのは、悲壮な光景に違いなかった。
「将軍」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
「雨ですね。お父さん。」 「雨?」 少将は足を伸ばしたまま、嬉しそうに話頭を転換した。 「また榲が落ちなければ好いが、……」
「将軍」芥川龍之介(青空文庫)
名文
「莫迦野郎! おれたちは死ぬのが役目じゃないか?」
旅順攻撃の白襷隊として出撃する兵士たちの会話の一節。名誉と死の間で揺れる一兵卒たちの本音が、戦場の空気を伝える。
「無論俗人じゃなかったでしょう。至誠の人だった事も想像出来ます。ただその至誠が僕等には、どうもはっきりのみこめないのです。僕等より後の人間には、なおさら通じるとは思われません。……」
終章で青年が父の少将に語る言葉。英雄とされたN将軍の「至誠」を次の世代がもう理解できないという、時代の断絶を示す一節。
原文を読む
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