秋山図(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
幻の名画は実在したのか
- 心理
- 文字数
- 7,505字
- 読了目安
- 約15分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
芥川龍之介が1921年(大正10年)、「改造」に発表した短編小説。中国・清初の画人たちの逸話に取材し、元の大家・黄大癡(黄公望)が描いたという名画「秋山図」をめぐる物語を、画家の王石谷が惲南田に語り聞かせるという趣向で描く。ある家で一度だけ「秋山図」を見て以来、その神品を忘れられずにいた大画家は、のちに再びその絵を目にする機会を得る。芸術の実在と幻、記憶のあやうさをめぐる、芥川の中国物の名品。
あらすじ
ある秋の夜、画家の王石谷は、友人の惲南田を訪ね、茶を啜りながら、幻の名画「秋山図」の話を切り出す。それは、王石谷の師・煙客先生(王時敏)から聞いた物語だった。若き日の煙客先生は、元の大家・黄大癡が描いたという「秋山図」の噂を耳にし、はるばるその絵を蔵する潤州の貴家を訪ねる。そこで目にした「秋山図」は、青緑の山肌や紅葉の色も鮮やかな、まさに神品というべき傑作だった。煙客先生はその絵を譲り受けようとするが果たせず、以来、その絶美のおもかげを、五十年ものあいだ忘れることができずにいた。歳月ののち、ようやく「秋山図」がふたたび世に現れたと聞いた煙客先生は、胸をときめかせてその絵と再会する。ところが――今また眼前にある「秋山図」は、たしかに佳い絵ではあるものの、かつて心を奪われたあの神品とは、どこか違っているように思われてならない。あれはまぼろしだったのか。それとも記憶が絵を美しく変えてしまったのか。「では秋山図がないにしても、憾むところはないではありませんか」――名画は、見た者の心のなかにこそ、はっきりと残っているのだ。芸術の実在と幻、そして記憶のあやうさをめぐる、芥川の中国物の名品である。
登場人物
- 王石谷 清初の画家。師・煙客先生から聞いた「秋山図」の物語を、友人の惲南田に語り聞かせる
- 煙客先生(王時敏) 若き日に幻の名画「秋山図」を一度だけ見て以来、その神品を五十年間忘れられずにいる大画家
- 惲南田 王石谷の友人の画家。「秋山図」の不思議な話に耳を傾ける
冒頭部(原文より)
「――黄大癡といえば、大癡の秋山図をご覧になったことがありますか?」 ある秋の夜、甌香閣を訪ねた王石谷は、主人の南田と茶を啜りながら、話のついでにこんな問を発した。 「いや、見たことはありません。あなたはご覧になったのですか?」
「秋山図」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
「しかし煙客先生の心の中には、その怪しい秋山図が、はっきり残っているのでしょう。それからあなたの心の中にも、――」 「では秋山図がないにしても、憾むところはないではありませんか?」 王・惲の両大家は、掌を拊って一笑した。
「秋山図」芥川龍之介(青空文庫)
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