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大正十二年九月一日の大震に際して(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物

自然に発狂の気味あるは疑ひ難い

  • 社会

芥川龍之介 1923年(大正12年)9月

文字数
8,489字
読了目安
約17分
表記
新字旧仮名
種別
随筆
舞台
  • 東京都
  • 神奈川県

この作品について

関東大震災の直後に芥川龍之介が書きとめた雑記。八月の鎌倉で藤と山吹と菖蒲が同時に咲いているのを見て「天変地異が起りさうだ」と言ってまわった話に始まり、焼け跡の貼り紙、避難した人々の人懐しさ、そして焼失した図書館の蔵書への痛憤まで。惨事のただなかで働く観察眼と諧謔が、かえって時代の記録となっている。

あらすじ

大正十二年八月、芥川は画家の小穴隆一(一游亭)と鎌倉の平野屋別荘に滞在していた。軒先の藤棚に八月だというのに紫の花が見え、裏庭には八重の山吹が咲き、小町園の池では菖蒲が蓮と咲き競っている。「藤、山吹、菖蒲と数へてくると、どうもこれは唯事ではない。『自然』に発狂の気味のあるのは疑ひ難い事実である」——以来、芥川は人の顔さえ見れば「天変地異が起りさうだ」と言ってまわった。誰も真に受けず、久米正雄などは「菊池寛が弱気になつてね」と嘲弄したものである。東京に帰ったのが八月二十五日、大地震はその八日目に起こった。以下は焼け跡の断章である。吉原の焼け跡に貼られた「浜町河岸の舟の中に居ります。桜川三孝」という一枚に、秋風の舟を家と頼んだ幇間の姿を髣髴とし、その洒脱に感じ入る。屋外に避難した人々が急に人懐しさを見せ、向こう三軒両隣を問わず親しげに話しあうさまを書きとめる。菊池寛との会話、流言と自警団、震災後の東京の変わりよう——短い断章が並ぶ。終わり近くで芥川の筆はにわかに激する。大学図書館の蔵書が焼けたのは大学の手落ちであり、書庫の構造も休日の管理もずさんだった。何より、古書を高閣に束ねるばかりで覆刻を怠り、材料を他に示すことを惜しんでついにそれを烏有に帰せしめた学者の罪は「鼓を鳴らして攻むべきである」と。

冒頭部(原文より)

     一 大震雑記  大正十二年八月、僕は一游亭と鎌倉へ行き、平野屋別荘の客となつた。僕等の座敷の軒先はずつと藤棚になつてゐる。その又藤棚の葉の間にはちらほら紫の花が見えた。八月の藤の花は年代記ものである。

「大正十二年九月一日の大震に際して」芥川龍之介(青空文庫)

末尾部(原文より)

それよりももつと突き詰めたことをいへば、大学が古書を高閣に束ねるばかりで古書の覆刻を盛んにしなかつたのも宜敷くない。徒らに材料を他に示すことを惜んで竟にその材料を烏有に帰せしめた学者の罪は鼓を鳴らして攻むべきである。

「大正十二年九月一日の大震に際して」芥川龍之介(青空文庫)

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