籠の小鳥(徳田秋声)のあらすじ・登場人物
銅山の兄と籠の囮鳥
- 家族
- 社会
- 文字数
- 9,139字
- 読了目安
- 約18分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
「新潮」1923(大正12)年6月号に発表された徳田秋声の短編で、1925年刊の短編集『籠の小鳥』の表題作。母の法事を済ませた作家の羊三が、銅山を預かる兄淳二の部屋に数日身を寄せ、原稿を書きながら鉱山の暮らしをのぞく。賃銀値上げの争議と恐慌による人減らしのあとの山の空気、坑口や選鉱場の様子、鶫を捕る霞網の囮を毎朝まめに世話する兄の姿が、口数の少ない兄弟の会話とともに描かれる。籠の中で空を仰ぐ囮の小鳥と、旧主筋への情誼から生涯を山で過ごしてきた兄の境遇が静かに重ね合わされ、大きな事件のないまま、二人の間に通い合うものが浮かび上がる。
あらすじ
作家の羊三は母の法事のあと、銅山全体を預かる兄淳二の部屋に身を寄せ、原稿を書いている。長兄が亡くなってから二人の気持ちは以前より融け合い、淳二は弟に長生きしてくれと口にするようになった。淳二は毎朝、霞網で鶫を捕るための囮の小鳥に摺餌をやるのを日課にしている。山では工夫の賃銀値上げ運動が失敗し、恐慌で銅価が下がるなか、主だった者が馘首されていた。羊三は兄に連れられて坑口や選鉱場、製錬所を見て回り、労働者の暮らしを思う。夕食後、淳二は、子供もない自分が後継者の現れるまでと思いつつ、旧主筋への情誼から生涯をこの山で過ごしてしまったと珍しく述懐し、羊三は兄の富への羨望も消えていくのを感じる。翌朝、淳二は囮の籠を高い棹に吊るして遠見の視力を養わせ、羊三は同じことをしていた亡父の姿を思い出す。原稿を書き上げると羊三は急に山に飽き、町が恋しくなる。そこへ淳二が急に帰ることになったと告げ、山の歴史を写した書き物を弟に渡し、二人は一緒に電車で山を下りる。羊三は兄の用事を、自分が長く山に留まるのを鉱山主に憚ったためかと疑うが、後に、それは争議に骨を折った筋の人々をねぎらうためだったと知る。
登場人物
- 羊三 東京の作家。母の法事のあと、兄の勤める銅山に数日滞在する
- 淳二 羊三の兄。旧主筋の家が持つ銅山を長年預かる。囮の小鳥の世話を日課にしている
冒頭部(原文より)
羊三は山を見るのが目的で、その山全体を預かつてゐる兄の淳二と一緒にこゝへ来たのだつたけれど、毎日の日課があつたり何かして、つひ鼻の先きの山の蔭から濛々と立昇つてゐる煙を日毎に見てゐながら、つい其の傍まで行つて見るのが臆劫であつた。
「籠の小鳥」徳田秋声(青空文庫)
末尾部(原文より)
羊三は兄の用事が何であるかを考へたりした。羊三が山に長く止まることを、周囲――特に礦山主に対して憚かるのではないかなどゝも思つたりした。 しかし其の想像が全く間違つてゐることが、後で羊三にも解つた。羊三がちよつと耳にしたところでは、それは全く、今度の事件に骨を折つてくれた其の筋の人達の労を犒ふためらしかつた。
「籠の小鳥」徳田秋声(青空文庫)
原文を読む
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