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竹藪の家(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

竹藪の家の虚ろな日々

  • 心理
  • 家族

坂口安吾 1931年(昭和6年)10月 「文科」

文字数
73,258字
読了目安
約2時間27分
表記
新字旧仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

坂口安吾が昭和初期に書いた初期の長編で、雑誌「文科」に連載され、のち昭和10年の作品集『黒谷村』に収められた。武蔵野の郊外、竹藪に囲まれた傾いた長屋に居候する青年と、そこに暮らす貧しい一家の日々を、九章にわたって描く。文体は詩的でことば遊びに富み、喧嘩の声と朝の光、虚無と笑いが入り交じる。のちの安吾の作風とは趣の異なる、若書きの実験的な小説である。

あらすじ

武蔵野の郊外の破れ長屋に、居候の樅原駄夫が転がり込んで二週間になる。裏の竹藪では毎朝、家の主人の野越与里と妻の総江が夫婦喧嘩を繰り広げ、老いた母が止めに入り、幼い多次郎が泣く。与里は街の映画館で映写技手を務める病弱な男で、駄夫は仕事を探す気力も失い、流されるまま日を送っている。物語は、二人の青年の寂しい会話、貧窮のなかで金を借りに回る駄夫の姿、与里の家に出入りする人々の騒ぎ、与里の兄の玄也とその妻紅子の来訪などを重ねてゆく。夫婦の争いは激しさを増し、与里は倒れて寝つき、玄也も妻に去られて取り乱す。人々がそれぞれ失った自分を探してそわそわする夜を経て、駄夫は横浜の友人を頼ってこの家を去る決心をする。春から二か月ほど過ごした長屋を出て、与里と並んで歩き、映画館の前で別れる。与里は、もう君に会えないような気がすると笑って手を握り、駄夫もきっと訪ねると答えて、互いに別れてゆく。

登場人物

冒頭部(原文より)

――首縊つて死んぢまへ! お前が、さう言つたんぢやないか。早く首縊れつたら。莫迦莫迦莫迦ア! なぜ早く首縊らないのだ――  家の裏手には一面に、はや年を経た孟宗のひつそりとした林が深い。朝朝の陽射しが水泡のやうにキラキラと濡れて、深い奥にもまばらに零れ、葉が落ちて濡れてふやけた篁の土肌から、いきれた臭気がムウンと顔に噎せながら其処ら一面に澱んでゐる――その篁が曲者であつた。

「竹藪の家」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

「ああ、君の健康を祈る――」  互に手を放し合ふと、与里は急にカラカラと爽やかな音を鳴らして哄笑し乍ら、 「君。きつと又訪ねて来て呉れ給へね」 「きつと!」  与里は窶れた笑顔と共に簡単な一礼を残し、直ぐ振向いてスタスタと、看板や幟等のゴタゴタした小屋の方へ歩き去つた。  駄夫も亦自分の道へ向き直り、杖を緩やかに振り廻し乍ら歩いて行つた。余程歩いてのち、もう一度念のために振向いてみたら、矢張り与里も、薄汚い幟のヒラヒラする下で、遠い雲でも眺めるやうに、駄夫の姿を見送つてゐた。  駄夫が高々と杖を振り上げたら、その人像も痩せた腕を差し上げて、帽子を静かに、左右に打ち振つてゐた。

「竹藪の家」坂口安吾(青空文庫)

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