トロッコ(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
トロッコを押したい少年の憧れ
- 青春
- 文字数
- 4,354字
- 読了目安
- 約9分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 神奈川県
- 静岡県
この作品について
1922年(大正11年)3月、『大観』に発表された芥川龍之介の短編。小田原と熱海の間で軽便鉄道の敷設工事が始まり、八歳の良平は毎日、村外れへトロッコを見に行く。荷を運ぶ台車、ひらつく半纏、しなる線路に目を奪われ、一度でよいから乗りたい、せめて押してみたいと願っている。そんな少年が、若い二人の土工に声をかけ、仕事を手伝う機会を得る。動く車の速さや風、坂の勾配、道端の蜜柑畑といったものが、良平の身体に近い位置から描かれる。大人に褒められ、もっと押していたいと思う心も、短い内心の言葉で示される。作者自身の幼少期をそのまま写した話ではなく、湯河原出身の力石平蔵の協力を得て書かれた作品として知られる。身近な工事場に見いだした冒険を通し、子供にとっての距離や時間、大人の働く世界への憧れを、簡潔な文章で立ち上げている。
あらすじ
小田原熱海間の軽便鉄道工事が始まったころ、8歳の良平は毎日村外れへトロッコを見物に行き、せめて一度でも押してみたいと憧れていた。ある夕方、弟と近所の子と無断で押して乗り、土工に叱られた良平は、それから十日余りのち、若い二人の土工に出会い、一緒にトロッコを押させてもらう。蜜柑畑や竹藪、海の見える道をどこまでも進み、良平は有頂天になるが、行けども行けども帰る気配はない。茶店の前で「われはもう帰んな。俺たちは今日は向う泊りだから」と言われた時、良平は一瞬呆気にとられ、泣きそうになった。日は暮れかかり、良平は板草履を脱ぎ捨て、さらに羽織も脱ぎ捨てて、来た道をただ一心に駆け続ける。家の門口に駆け込んだ途端、良平はとうとう大声に泣き出した。周りの大人たちが訳を尋ねても、あの遠い道を駆け通して来た心細さを振り返ると、いくら泣き続けても足りない気持ちだった。26歳になり、妻子と東京へ出て雑誌社で校正の仕事をする良平は、今も何の理由もなく、その時の自分を思い出すことがある。塵労に疲れた彼の前には、今でも薄暗い藪や坂のある路が、細々と一すじ断続している。
登場人物
- 良平 トロッコに憧れる8歳の少年。本作の主人公
- 若い二人の土工 良平にトロッコを押させてくれるが、日暮れに一人で帰るよう告げる
冒頭部(原文より)
小田原熱海間に、軽便鉄道敷設の工事が始まったのは、良平の八つの年だった。良平は毎日村外れへ、その工事を見物に行った。工事を――といったところが、唯トロッコで土を運搬する――それが面白さに見に行ったのである。
「トロッコ」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
良平は二十六の年、妻子と一しょに東京へ出て来た。今では或雑誌社の二階に、校正の朱筆を握っている。が、彼はどうかすると、全然何の理由もないのに、その時の彼を思い出す事がある。全然何の理由もないのに?――塵労に疲れた彼の前には今でもやはりその時のように、薄暗い藪や坂のある路が、細細と一すじ断続している。…………
「トロッコ」芥川龍之介(青空文庫)
名文
小田原熱海間に、軽便鉄道敷設の工事が始まったのは、良平の八つの年だった。
少年の年齢を添えて時と場所を据える書き出し。トロッコで遠くまで行った帰り道の心細さが、生涯忘れえぬ記憶として残る。
塵労に疲れた彼の前には今でもやはりその時のように、薄暗い藪や坂のある路が、細細と一すじ断続している。
作品の結び。大人になった良平が、少年の日にトロッコで遠くまで来てしまった心細い帰り道を思い出す。人生の不安をその路に重ねて閉じる。
原文を読む
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