ドモ又の死(有島武郎)のあらすじ・登場人物
飢えた画家たちの大計略
- 風刺
- 青春
- 文字数
- 16,686字
- 読了目安
- 約33分
- 表記
- 新字新仮名
- 舞台
- 東京都
この作品について
1922年(大正11年)10月、有島武郎の個人雑誌『泉』に発表された一幕の戯曲。冒頭に作者自身が、マーク・トウェインの小話から暗示を得て書いたと記している。舞台は貧しい若い画家五人の画室。絵がまったく売れず、三日も食べていない彼らは、モデルの娘とも子を前に、空腹の嘆きと芸術論を代わる代わる口にしている。そこへ仲間の花田が、書画屋と成金の美術愛好家から金を引き出すための「計略」を携えて戻ってくる。ドモ又、生蕃、若様といった諢名で呼び合う青年たちの軽妙な掛け合いで進む喜劇で、有島の十数編の戯曲のなかでは上演の機会に恵まれた作品とされる。
あらすじ
絵の売れない若い画家、沢本(生蕃)、瀬古(若様)、戸部(ドモ又)は、三日も食べずに画室で空腹に苦しみながら、モデルのとも子を描いている。とも子は、このままではどこかの画伯のところへ移るしかないと言い、戸部は怒って出て行けとどなる。瀬古が画箱の中から見つけたチョコレートの食べ残しを分け合っているところへ、花田と青島が戻ってくる。花田の計略はこうだった。仲間の一人の天才画家が貧と飢えのために昨日死んだことにして、その遺作を書画屋の九頭竜と成金の美術好き堂脇に高く売りつける。死んだことにされる者はその弟になりすまして生き続け、褒美としてとも子を妻にできる。花田に促されたとも子は、五人それぞれの長所を挙げたうえで、吃りで癇癪持ちの戸部を選ぶ。戸部は頭を刈られ髭をそり落とされて「戸部の弟」に仕立てられ、仲間たちは戸部の絵に署名させ、ベートーヴェンの石膏面に絵の具を塗って死に顔をこしらえ、寝棺に納める。二人きりになった戸部ととも子は互いの思いを打ち明けるが、そのたびに仲間に邪魔される。一同は「ドモ又の霊」にかけて、立派な芸術を生み出すこと、九頭竜と堂脇から存分に罰金を払わせることを誓い、戸部ととも子に別れを告げる。戸を叩く九頭竜と堂脇の声に、花田は皆にしかめ面をさせ、ほんとうに泣いているとも子のそばで、戸部は茶碗の水を目のふちに塗る。花田が戸を開けに行くところで幕となる。
登場人物
- 戸部 若い画家。諢名はドモ又。吃りで癇癪持ち
- とも子 画家たちのモデルの娘
- 花田 若い画家。才覚があり、仲間のために計略を立てる
- 沢本 若い画家。諢名は生蕃
- 瀬古 若い画家。諢名は若様
- 青島 若い画家。堂脇の令嬢に憧れる
冒頭部(原文より)
沢本と瀬古とがとも子をモデルにして画架に向かっている。戸部は物憂そうに床の上に臥ころんでいる。 沢本 (瀬古に)おい瀬古、ドモ又がうなっているぞ、死ぬんじゃあるまいな。 瀬古 僕も全くうなりたくなるねえ、死にたくなるねえ。……ともちゃん、おまえもおなかがすいたろう。 とも子 もう物をいってもいいの、若様。
「ドモ又の死」有島武郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
沢本 花田、ちょっと待て……(茶碗に二杯水を入れて戸部の所に持って行く)おいドモ又、貴様の涙をこの中に入れとくぞ。これはともちゃんのだ。尻の後ろにやっとけ。あわててこぼすな。 花田 しいっ。(観客のほうに向いて笑うのを制する)じゃあけるぞ。みんなしかめっ面をしてろ。 とも子はさっきからほんとうに泣いている。戸部、茶碗から水をすくって眼のふちに塗る。花田、戸をあけに行く。 ――幕――
「ドモ又の死」有島武郎(青空文庫)
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