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薄紅梅(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

明治の文壇に咲く淡い恋

  • 青春
  • 風刺

泉鏡花 1937年(昭和12年) 「東京日日新聞」

文字数
60,983字
読了目安
約2時間2分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

1937年(昭和12年)に「東京日日新聞」「大阪毎日新聞」で連載された、鏡花晩年の長編。明治中期の東京を舞台に、貧しい若手の小説家・辻町糸七と、中洲の令嬢で女流作家のお京(月村京子)、三崎町の貸本屋お伽堂の女房、画家の野土青麟らが交わる。作者自身を思わせる主人公と、師・上杉先生を中心にした文壇の人々が、ユーモラスな筆致で描かれる自伝風の物語。

あらすじ

明治の半ば、麹町九段の中坂下から三崎町にかけて。若手作家たちが集まる文壇の梁山泊を訪れた依田学海のくだりから、物語は始まる。三崎町の貸本屋「お伽堂」の店先に、令嬢風のお嬢さんが、糸七の小説『たそがれ』を借りに来る。女房は、気味の悪い髪の毛が絡みつく怪異を語り、一方、画家の野土青麟ら三人組が、この女房にちょっかいを出している。お嬢さんの正体は、上杉先生の門下の才媛・月村京子(お京)だった。年が明けた大雪の朝、お京は女友達の三浜渚と不忍池の弁天へお参りに行き、小説が上手に書けるように祈る。その帰り、お京の頭巾の中から、長い髪の毛がするすると伸びる怪異が起きる。糸七は、友人の矢野弦光と吉原帰りの落武者姿で、同じ雪の池の端を歩いていた。弦光は、お京を一目見て恋に落ち、糸七に先生への仲立ちを頼む。ところが、お京が当てつけのように、糸七が最も嫌う青麟に嫁ぐことを決めてしまう。糸七の貧しい長屋にお京が突然訪れ、「私を折檻してください」と詫びる。糸七は吉原の件を取り繕いながらも、お京が青麟のもとへ嫁ぐと聞いて動揺し、酒を呷って暴れる。結末には、お伽堂の女房からの手紙が届く場面が置かれるが、作者は自らこれを拵えた作意だと断り、実際には手紙が届いたのは式の二か月ほどあとだったと明かして終わる。

登場人物

冒頭部(原文より)

 麹町九段――中坂は、武蔵鐙、江戸砂子、惣鹿子等によれば、いや、そんな事はどうでもいい。このあたりこそ、明治時代文芸発程の名地である。かつて文壇の梁山泊と称えられた硯友社、その星座の各員が陣を構え、塞頭高らかに、我楽多文庫の旗を飜した、編輯所があって、心織筆耕の花を咲かせ、綾なす霞を靉靆かせた。 若手の作者よ、小説家よ!……天晴れ、と一つ煽いでやろうと、扇子を片手に、当時文界の老将軍――佐久良藩の碩儒で、むかし江戸のお留守居と聞けば、武辺、文道、両達の依田学海翁が、一夏土用の日盛の事……生平の揚羽蝶の漆紋に、袴着用、大刀がわりの杖を片手に、芝居の意休を一ゆがきして洒然と灰汁を抜いたような、白い髯を、爽に扱きながら、これ、はじめての見参。……「頼む。」

「薄紅梅」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

「あい、お手紙。ほら、さっき来たんだけれどね、ね、花嫁が妬くと悪いから預っといたのよ、えらいでしょう。……女の人の手紙なんですもの。」 ――お伽堂、時より――で、都合で帰郷する事になり、それにつけ、いつぞや、『たそがれ』など、あなたを大のご贔屓の、中坂下のお娘ごのお達引で、金子、珊瑚の釵の、ご心配はもうなくなりましたと申したのは、実は中洲、月村様のお厚情。京子様、その事堅くお口どめゆえ、秘してはおりましたが、このたび帰国の上は、かれこれ、打明けます折もつい伸々と心苦しく、お京様とは幾久しきおつきあい、何かにつけ、お胸にそのお含み、なによりと存じ………… ――もう可い。――(完)

「薄紅梅」泉鏡花(青空文庫)

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