右門捕物帖 血の降るへや(佐々木味津三)のあらすじ・登場人物
床の間の軸に夜ごと血が降る
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 22,543字
- 読了目安
- 約45分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
佐々木味津三の捕物小説「右門捕物帖」全38話の第三十七話。口数の少ない南町奉行所の同心「むっつり右門」こと近藤右門と、おしゃべりな手下の伝六が江戸の事件を解く連作。二月の末、天神祭りに昔の手習いの師匠を訪ねろと伝六にせっつかれている夕暮れ、ちょうちんも持たない医者の駕籠が右門を迎えに来る。駕籠の中には「くれぐれもご内密に」の文字。呼び出したのは塗町の評判の町医岡三庵で、その二階の床の間に掛けた軸に、天井からも壁からも垂れたあとがないのに、毎晩血が降るという。怪談めいた発端から家族の情へと至る一編。
あらすじ
二月の末、ちょうちんのない医者の駕籠が「くれぐれもご内密に」の書き付けを載せて右門を迎えに来る。塗町の町医岡三庵の二階の床の間に軸を掛けると、天井からも壁からも垂れたあとがないのに、ここ六日、毎晩血が降りかかっているという。二階へ上がるはしごは一つきりで、奥と表の出入りはきびしく分けられ、家族は三庵と妻と娘の千萩の三人だけ。右門は軸を裏返しに掛けさせ、雇い人と家族を一人ずつ二階に呼んで顔を見る。伝六に近所のお針の師匠の家を探させると、仲間の娘から、千萩が毎晩夜ふけに小さなお櫃を抱いてどこかへ出かけるといううわさを聞き出す。辻占売りの子に見張らせて、懐剣を持つ女中を連れた千萩のあとをつけると、行き先は松永町の正福寺だった。千萩はお櫃に入れたねずみをへびに与えて飼っていた。そこに現れた若い男は三庵の実の息子の三之助で、千萩のいいなずけだった。千萩のへび好きを嫌って家を出たが、恩人の娘を大事にする父は取り合わなかったという。右門は三之助が恨んで血をまいたと問いつめるが、三之助は本当に何も知らない。考えあぐねた右門は、医者の家なら血の捨て場があるはずと気づき、夜のうちに庭の血がめのふたに生うるしを塗っておく。翌朝また血が降ったと知らせが来て、家の者の手を改めると、三庵の妻の手がうるしにかぶれていた。妻は、実の子の三之助に跡を継がせたい一心で、家に悪いうわさを立てて千萩の養子話を壊そうとしたのだった。右門は千萩に三之助への思いを確かめ、二人を添わせる計らいをする。
登場人物
- 近藤右門 南町奉行所の同心。むっつり右門。医者の家の内密の怪事を調べる
- 伝六 右門の手下の岡っ引き。手習いの師匠への義理を説いて右門をせっつく
- 岡三庵 塗町の評判の町医。五十七歳
- 千萩 三庵の家の娘。三庵の恩人の忘れ形見
- 三庵の妻 五十くらいの母親
冒頭部(原文より)
1 その第三十七番てがらです。 二月の末でした。あさごとにぬくみがまして江戸も二月の声をきくと、もう春が近い。 初午に雛市、梅見に天神祭り、二月の行事といえばまずこの四つです。
「右門捕物帖 血の降るへや」佐々木味津三(青空文庫)
末尾部(原文より)
「おそいや。おまえが鳴らなくて、いつになく静かでよかったよ。それにしても、おいらとおまえは出雲の神さ。ざらざらしてちっと気味がわるいが、ほかになでる人膚はねえ、おまえの首でもなでてやらあ。こっちへかしなよ」 くすぐったそうに首をすぼめた伝六と肩を並べながら、爽々颯々と吹く朝風の中へ急ぎました。
「右門捕物帖 血の降るへや」佐々木味津三(青空文庫)
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