右門捕物帖 子持ちすずり(佐々木味津三)のあらすじ・登場人物
本郷の路傍に火ぶくれの侍
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 18,903字
- 読了目安
- 約38分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
佐々木味津三の捕物小説「右門捕物帖」全38話の第三十六話。口数の少ない南町奉行所の同心「むっつり右門」こと近藤右門と、おしゃべりな手下の伝六が江戸の事件を解く連作。正月十五日のやぶ入りの日、浅草へ遊びに行こうとせがむ伝六をよそに、右門はこたつの上で一枚の見取り図をにらんでいた。けさ駆けこんできた侍が置いていった本郷の加賀屋敷裏の絵図面で、男の使いなのに紙には女のおしろいの香りが残り、書きこみは見事な女文字。加賀百万石の名物「献上雪」が謎を解く鍵となる一編。
あらすじ
やぶ入りの朝、右門は侍が届けた絵図面を手に、本郷の加賀家裏門近くへ向かう。路傍に横たわっていたのは、手足も顔も火ぶくれになった侍の死骸だった。加賀家の者は誰も姿を見せない。右門は火傷そっくりの傷を凍えによるものと見て、絵図面を届けた若侍から、加賀家が国もとから運ぶ献上雪が前夜屋敷の雪室に入ったばかりと聞き、侍は雪で凍え死んだと見抜く。死者は加賀家の奥祐筆松坂甚吾で、絵図面を書いたのは若く美しい妻のおこよらしい。ところがおこよを呼びに行こうとした若侍が、どこからか飛んできた矢にのどを射抜かれて死ぬ。甚吾の長屋には、おこよの「夫のあとを追う」という書き置きがあり、本人の姿はない。右門は、震えている女中のしげ代に名と生国を書かせ、その筆跡が書き置きと同じだと見破った。しげ代は、祐筆頭の大口三郎におどされて偽の書き置きを書かされ、おこよはさらわれたと白状する。行き先は大口と親しい弓術師範依田重三郎の屋敷とわかり、右門は乗りこんで、矢を射かける依田と大口を草香流で押さえる。おこよによれば、大口はもと同じ溝口藩の祐筆で、おこよの父が秘蔵した名硯「子持ちすずり」を盗んで加賀家に仕官し、硯を依田への礼に贈っていた。それを探り当てた甚吾を、二人は雪で凍え殺したのだった。現れた加賀家の重役が、家名のために二人を引き取り、おこよに夫のかたきを討たせると約束する。
登場人物
- 近藤右門 南町奉行所の同心。むっつり右門。女文字の絵図面から事件を探る
- 伝六 右門の手下の岡っ引き。やぶ入りの浅草見物をせがむ
- 松坂甚吾 加賀家の奥祐筆。路傍で火ぶくれの死骸となって見つかる
- おこよ 甚吾の妻。二十三、四の美人
- しげ代 松坂家に仕える越後新発田生まれの女中
冒頭部(原文より)
1 その第三十六番てがらです。 事の起きたのは正月中旬、えりにえってまたやぶ入りの十五日でした。 「えへへ……話せるね、まったく。一月万歳、雪やこんこん、ちくしょうめ、降りやがるなと思ったら、きょうにかぎってこのとおりのぽかぽか天気なんだからね。さあ行きましょ、だんな、出かけますよ」
「右門捕物帖 子持ちすずり」佐々木味津三(青空文庫)
末尾部(原文より)
「でも、ちょっとあっしゃ気になることがあるんだがね」 「なんだよ」 「あの美しいおこよさん。うれしそうに子持ちすずりを抱いていったはいいが、きょうから赤い信女のおひとり者になるんだ。どんな仏さまから子宝を授かるかと思うと、気がもめるんですよ」 しかし、名人はにこりとも、くすりともせずに、黙々ともう五、六間先でした。
「右門捕物帖 子持ちすずり」佐々木味津三(青空文庫)
原文を読む
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