右門捕物帖 明月一夜騒動(佐々木味津三)のあらすじ・登場人物
豆名月の宵、消えた能面
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 14,096字
- 読了目安
- 約28分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
佐々木味津三の捕物小説「右門捕物帖」全38話の第十八話。口数の少ない南町奉行所の同心「むっつり右門」こと近藤右門と、おしゃべりな手下の伝六、小男の善光寺辰が江戸の事件を解く連作。九月十三日、豆名月の宵。事件がなく暇をもてあます伝六のもとへ、かつて右門に諭されて足を洗った女すり、くし巻きお由が、琴と三味線の師匠となって訪ねてくる。お由が連れてきたのは、顔色を失った老武家だった。第六話の後日談でもあり、月見の夜のうちに片づく小さな事件を、軽やかな筆で描く短めの一編。
あらすじ
十三夜の宵、くし巻きお由が、今は琴と三味線の師匠として右門を訪ね、出稽古先の老武家の力になってほしいと頼む。老武家は今川古流を指南する高家の北村大学で、将軍家から預かる秘蔵の蓮華鬼女の能面を、貧に迫られて湯島天神下の質屋三ツ藤に入れていた。翌日の上覧能に持参せよと命じられ、百両を工面して請け出すと、封印に異状はないのに箱の中身だけが消えていたという。右門が質屋を調べると、主人はこの春に死に、番頭の十兵衛が後見して若後家の店を切り盛りしていた。十兵衛のおどおどした様子に伝六は目をつけ、若後家も、十兵衛が毎晩水茶屋者らしい女と会っていると告げ口する。辰につけさせると、十兵衛はただ碁を打っているだけだった。右門は、封印に使った北村家の印鑑に思い当たる。北村の屋敷へ行くと、オランダ錠の手文庫から印鑑が消えていた。錠の開け方を知るのは大学と用人の黒川だけ。そこへ伝六が、若後家と黒川がこっそり池ノ端へ出かけたと知らせる。右門はお由に鳥追い姿をさせ、月見でにぎわう池ノ端で、若後家とむつまじい黒川の懐から紙入れをすり取らせる。中から盗まれた印鑑と別の質屋の札が出てきた。黒川は若後家との不義の金に詰まり、主人の印鑑で封印を偽って能面を別の質屋に質替えし、若後家は口うるさい十兵衛に罪をきせて追い出そうとしていたのだった。右門は北村家の家名を思って二人を見逃し、きつく戒める。
登場人物
- 近藤右門 南町奉行所の同心。むっつり右門。名月の夜の一件を内々に片づける
- 伝六 右門の手下の岡っ引き。事件がなく暇をもてあまして八つ当たりする
- 善光寺辰 右門の手下の小男。尾行と投げなわを受け持つ
- くし巻きお由 もと腕ききの女すり。右門に諭されて堅気になり、琴と三味線の師匠をしている
- 北村大学 今川古流を指南する高家。将軍家から預かる能面を失って青ざめる
冒頭部(原文より)
1 右門捕物第十八番てがらです。 事の勃発いたしましたのは九月中旬。正確に申しますると、十三日のことでしたが、ご存じのごとくこの日は、俗に豆名月と称するお十三夜のお月見当夜です。ものの本によると、前の月、すなわち八月十五日のお月見には、芋におだんごをいただくから芋名月と称し、あとの月のこのお十三夜には枝豆をいただくから豆名月というのだそうですが、いずれにしても当今のようにむやみとごみごみした時代とはちがって諸事おおまかにそして、風流にできていたお時代なんですから、こういうふうな神代ながらの年中行事となると、市中をあげてみな風流人になったもので、当時の名所というのがまず第一に道灌山、つづいては上野山内、それから少しあだっぽいところになると花魁月見として今も語りぐさになっている吉原。
「右門捕物帖 明月一夜騒動」佐々木味津三(青空文庫)
末尾部(原文より)
「黒川の野郎もとんだ大まぬけさ。オランダ錠のあけ方を知っているんだから、封印に細工をしたあとで、こっそりまた印形を文庫の中へ入れておきゃいいのに、いつまでも後生だいじに紙入れの中なんぞに入れておきゃがったんで、ろくでもねえ色恋までもあばかれるんだ」 ――しかし、世はさまざまです。月に流れて心の底にまでもしみ渡るような呼び声が聞こえました。 「淡路イ島、通う千鳥の恋のつじうらア――」
「右門捕物帖 明月一夜騒動」佐々木味津三(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。