右門捕物帖 耳のない浪人(佐々木味津三)のあらすじ・登場人物
兄を殺したのは「くま」
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 20,019字
- 読了目安
- 約40分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
佐々木味津三の捕物小説「右門捕物帖」全38話の第十話。口数の少ない南町奉行所の同心「むっつり右門」こと近藤右門と、おしゃべりな手下の伝六が江戸の事件を解く連作で、本編は語り手が前口上で、右門がはじめて細身の一刀を鞘走らせると予告する一編。将軍家の鷹狩りを前にした晩、伝六が連れてきたのは、豆粒のように小さな少年僧。兄の小僧が「くま」に殺されたと奉行所へ訴えに来たのだという。禅問答のような少年の受け答えを、右門は碁石をいじるようにじっくり読み解いてゆく。
あらすじ
鷹狩りの打ち合わせから戻ると、伝六が小さな少年僧を連れてきていた。源空寺の黙山と名のる十ほどの小僧で、兄の鉄山が、肩をぐさりと斬られて死ぬ間際に「くまにやられた」とだけ言い残したと訴える。殺生戒を守る寺の子らしく恨みは口にしないが、かたきを知りたいという。黙山が、師匠がときおりないしょで生臭を食べると口を滑らせたことから、右門は師匠の熊仲和尚に疑いをかけ、伝六に探らせると、和尚は八丁堀の者と聞いて逃げ出していた。右門が浅草のひのき稲荷近くの女の家に踏み込むと、和尚は女と蛤鍋をつついていた。ところが「熊仲」はユウチュウと読むのであり、和尚は女犯の発覚を恐れて逃げただけだった。見逃してもらうかわりに和尚が明かした真相によれば、黙山兄弟は南部藩士の子で、姉を横恋慕の浪人に殺され、かたきを討つため江戸へ出てきた身の上。鉄山は殺される前に、浅草で南部名物くまの手踊りの見世物を見かけ、その中に姉のかたきである片耳のない浪人がいると言っていた。翌日、和尚の知らせで見世物小屋へ駆けつけた右門は、浪人の姿が見えないのを怪しみ、檻の中のくまを突かせる。くまの縫いぐるみから現れたのは、片耳のない浪人だった。黙山は右門の助勢で見事に姉と兄のかたきを討つ。そこへ南部藩を追われた浪人仲間の五人が刀を抜いて取り囲み、右門ははじめて錣正流の居合いで五人を斬り伏せる。右門は骸にむしろをかけ、菩提を弔ってやれと黙山らに頼む。
登場人物
- 近藤右門 南町奉行所の同心。むっつり右門。錣正流の居合いの遣い手
- 伝六 右門の手下の岡っ引き。少年僧を右門の屋敷へ連れてくる
- 黙山 源空寺の小さな少年僧。兄を殺した「くま」を知りたいと訴える
- 鉄山 黙山の兄。肩を斬られ、「くまにやられた」と言い残して死ぬ
- 熊仲和尚 源空寺の住職。黙山兄弟の師匠
冒頭部(原文より)
1 ――今回は第十番てがらです。 ところが、少しこの十番てがらが、右門の捕物中でも変わり種のほうで、前回にご紹介いたしました九番てがらの場合のごとく、抜くぞ抜くぞと見せかけてなお抜かなかったむっつり右門が、今度ばかりはほんとうにあの細身の一刀を鞘走らせて、切れ味一品のわざものにはじめてたっぷり人の生き血を吸わすることとなりましたから、いよいよ右門の捕物秘帳は、ここにいっそうの凄艶みと壮絶みとをそのページの上に加えることとなりました。
「右門捕物帖 耳のない浪人」佐々木味津三(青空文庫)
末尾部(原文より)
そして、みずから手を添えてやると、たとえ自業自得に倒れた者たちではあっても、いったん死者の数にはいったものは、このうえ恥ずかしめてはならぬというかのように、そこの小屋からむしろを取りはずしてきて、六つのあさましい骸へおおいかぶせてやりました。 ――並み居る見物人は、抜いてもあざやかであるが、切ってもまた、最後まで右門らしさを失わないその人がらのゆかしさに、いまさらのごとく胸を打たれたとみえて、いっせいに感嘆のどよめきをみせました。 右門十番てがらは、かくしてその捕物秘帳に、最初の血で描かれた美花をさらに一つ添えて、いよいよ次の第十一番てがらにうつることとなりました。
「右門捕物帖 耳のない浪人」佐々木味津三(青空文庫)
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