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右門捕物帖 千柿の鍔(佐々木味津三)のあらすじ・登場人物

雪の夜、伊豆守の火急の召し

  • ミステリ
  • 歴史

佐々木味津三 

文字数
19,692字
読了目安
約39分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

佐々木味津三の捕物小説「右門捕物帖」全38話の第二十話。口数の少ない南町奉行所の同心「むっつり右門」こと近藤右門と、おしゃべりな手下の伝六、小男の善光寺辰が江戸の事件を解く連作。十一月下旬、将軍家の尾久・隅田村への鷹狩りに右門主従もお供するが、粉雪が舞いだして中止となる。帰りぎわ、松平伊豆守は辰だけを呼んで用を言いつける。その辰が夕方になっても戻らず、雪の夕暮れ、伊豆守から「いかなることあるとも他言いたすべからず」と記した火急の呼び出しが届く。連作のなかでも雪の夜の哀切が際立つ一編。

あらすじ

鷹狩りが雪で中止になった日、伊豆守は辰を呼んで弓を届ける用を言いつける。ところが辰は夜になっても帰らず、伝六の元結いがひとりでに切れる。そこへ伊豆守の火急の呼び出しが来て、右門は馬で下屋敷へ駆けつける。雪の庭の菰の下に横たわっていたのは、伊豆守の家臣古橋専介と辰の亡骸だった。見つけたのは専介の一人娘小梅で、二人は口の端に血を含んで倒れていたという。一見は相討ちだが、右門は肩の傷などから別の者の仕業と見抜く。辰の投げなわは途中で断ち切られ、手には敵の刀が残っていた。辰は弓を取りに来て専介が襲われている場に行き合わせ、助太刀に飛び出して斬られたのである。絵の具に染まった専介の指から、右門は専介が伊豆守の隠密だったことを聞き出す。専介は絵心を生かして讃岐の生駒家の城の無断の普請を探り、生駒家は取りつぶされていた。残された刀の鍔は名工千柿老人の作。伝六と老人を訪ねると、注文主は生駒家の家臣で、左手の小指が一本ない権藤四郎五郎左衛門とわかる。伊豆守は小姓の采女ら八人の美少年を早馬で江戸の四口へ走らせ、中仙道口の板橋で、中間に化けた浪人の足取りがつかめた。右門は伝六と小梅を連れて隠れ家に乗りこみ、刀を渡して勝負を挑む浪人を草香流で投げ倒す。小梅と伝六がとどめを刺し、父と弟分のかたきを討つ。雪の降りしきるなか、伝六は辰に向かって泣き叫ぶ。

登場人物

冒頭部(原文より)

1  その第二十番てがらです。  事の端を発しましたのは、ずっと間をおいて十一月下旬。奇態なもので、寒くなると決まってこがらしが吹く。寒いときに吹く風なんだから、こがらしが吹いたとてなんの不思議もないようなものなんだが、江戸のこがらしとなると奇妙に冷たくて、これがまた名物です。こやつが軒下をカラカラと吹き通るようになると、奇態なものできっと火事がある。寒くて火をよけい使うようになるんだから、火事が起きたとてべつに不思議はないようなもんなんだが、江戸の火事となると奇妙によく燃えて、これがまた名物です。それからいま一つこの季節に名物なのは将軍家のお鷹狩り――たいそうもなくけっこうな身分なんだから、将軍家がお鷹狩りをやろうと、どじょうすくいをあそばそうと、べつに名物というほどのこともなさそうなんだが、人間は暑いときよりも寒いときのほうがいくらか殺伐になるとみえて、必ず十一月になると、このお鷹野の仰せいだしがあるから奇妙です。

「右門捕物帖 千柿の鍔」佐々木味津三(青空文庫)

末尾部(原文より)

 たったひとりで、というところにひときわ力を入れて叫ぶと、わッと雪の上に泣き伏しました。喜びに耐えられないもののように泣き伏しました。――父のかたきを討った小梅も共に同様、よよと雪に伏しました。  名人もまた同様、しずかにこうべをたれると、そっと目がしらを押しぬぐいました。  その三人の姿の上へ、そして四郎五郎左衛門のむくろの上へ、そしてお感慨深げに、黙念と馬上から見守っていられる宰相伊豆守のおしのび姿の上へ、馬首を並べてご警固申し上げている美小姓釆女の前髪姿の上へ、深夜の雪がおやみなく、しんしんと降りそそぎました。

「右門捕物帖 千柿の鍔」佐々木味津三(青空文庫)

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