右門捕物帖 卒塔婆を祭った米びつ(佐々木味津三)のあらすじ・登場人物
「母よ。みんなひもじくて」
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 26,243字
- 読了目安
- 約52分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
佐々木味津三の捕物小説「右門捕物帖」全38話の第二十五話。口数の少ない南町奉行所の同心「むっつり右門」こと近藤右門と、おしゃべりな手下の伝六が江戸の事件を解く連作。仲秋の朝、寝坊を決めこむ右門のもとへ、伝六が赤ん坊を抱いて駆けこんでくる。日本橋のたもとに三人の子が捨てられていたというのだ。赤子のひとりはあめをしゃぶり、ぞうりの間には「母よ。みんなひもじくてならねえんだ」と書いた紙がはさまれていた。犯人を追う謎解きよりも、貧しい子どもたちへのいたわりが胸を打つ一編。
あらすじ
仲秋のある朝、日本橋のたもとに赤ん坊が三人捨てられていた。一人だけがあめをしゃぶり、そばのぞうりの間には「母よ。みんなひもじくてならねえんだ。はやく帰ってきてくんな」と書いた畳御幣がはさまれている。誰もあめを恵んだ者はいないと聞いた右門は、近くに捨てた子のきょうだいが隠れているとにらみ、人込みから幼い姉弟を見つけ出す。何日も食べていない二人に大福もちを山ほど食べさせるが、姉は泣くばかりで口を開かない。そこへ本所の女が二人、ゆうべ子育て観音に参った晩に赤ん坊を盗まれたと怒鳴りこみ、姉弟を下手人とののしる。右門が黙って姉娘のあとをついていくと、娘は扶桑教の祈祷所に入った。行者の話では、姉弟の父はこの春に死に、若い母が出たきり戻らず、困った姉弟の相談に、捨て子をすれば人が助けてくれると知恵をつけたのだという。姉弟は人の赤子を盗み、末の弟と並べて捨てたのだった。右門は姉弟の住まいを調べ、米びつの上に祭られた卒塔婆と、ぬかを焼いて飢えをしのいでいた跡を見つける。米びつの中から出てきたのは「いんちきばくち勝ち抜き秘法」と記した豆本と、ばくちの約束を記した文。母はばくちで暮らしを立てようとして夜具まで売り、女衒の三つ輪のお絹と千葉から来た田舎の金持ちのいかさまにかかって借金を負い、からだで払えと物置き小屋に閉じこめられていたのである。右門は二人を捕らえて母を救い出し、伝六のへそくりに自分の金を添えて、母子に暮らしの元手を渡す。
登場人物
- 近藤右門 南町奉行所の同心。むっつり右門。捨て子の謎から貧しい一家を救う
- 伝六 右門の手下の岡っ引き。拾った赤ん坊を抱いて駆けつける人情家
- 姉娘 日本橋のたもとに捨てられた赤子の姉。何を聞かれても口を開かない
- 若後家 捨て子たちの母。夫に死なれ、家を出たまま帰らない
- 扶桑教の行者 姉娘が駆けこむ祈祷所の老人
冒頭部(原文より)
1 その第二十五番てがらです。 事の起きたのは仲秋上浣。 鳶ノ巣山初陣を自慢の大久保彦左があとにも先にもたった一度詠んだという句に、
「右門捕物帖 卒塔婆を祭った米びつ」佐々木味津三(青空文庫)
末尾部(原文より)
「子どもがかわいそうだから、ふたりの志だ。どんなに貧乏しようとも、まっとうな世渡りするほどりっぱなことはねえ。これからけっしてさいころいじりなんぞに手出ししちゃいけませんぜ。十三両ありゃ、一年や二年寝ていても暮らせるが、働くこうべに神宿るだ。これを元手に、何か小商いでもやって、子どもたちにうまいおまんまを腹いっぺえたべさせておやりなせえよ」 「えれえ。ちくしょう。どう考えても、だんなはおらよりちっとえれえね。三両のへそくりをここへ使うたあ気に入った。めんどうくせえから、みんなはたいてやらあ。ね、ほら、まだ小粒銀が六つ七つと、穴あき銭が二、三枚ありますよ。けえりにあんころもちでも大福もちでもたんと買ってね、子どもたちのその落ちくぼんだ目玉をもとどおりに直させておやんなせえましな。へえ、さようなら――」 伝六またなかなかにうれしい男です。――すいすいと秋風が吹き渡って、大江戸の町なかもしみじみとした秋でした。
「右門捕物帖 卒塔婆を祭った米びつ」佐々木味津三(青空文庫)
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