右門捕物帖 妻恋坂の怪(佐々木味津三)のあらすじ・登場人物
松の内、妻恋坂の幼い亡骸
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 22,618字
- 読了目安
- 約45分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
佐々木味津三の捕物小説「右門捕物帖」全38話の第二十一話。口数の少ない南町奉行所の同心「むっつり右門」こと近藤右門と、おしゃべりな手下の伝六が江戸の事件を解く連作。年が明けて松の内の二日、右門は喪中を理由に年賀を欠礼し、こたつにこもっている。伝六は亡き弟分を思い出しては涙ぐむ。そこへ本郷妻恋坂で、幼い兄弟三人が殺され、そのそばで気のふれた若者が出刃包丁を手に暴れているという知らせが届く。奉行の内命を受けたあばたの敬四郎が、またしても右門の前に立ちはだかる。
あらすじ
正月二日、右門は喪中を理由に年賀を欠礼し、あばたの敬四郎にいやみを言われる。昼どき、伝六が、本郷妻恋坂の二階家で三人の子どもが殺され、そばで気のふれた若者が出刃包丁を振り回していると知らせてくる。現場では、奉行の内命を受けた敬四郎たちが若者にてこずっていた。右門はきな粉のもちで若者をなだめて包丁を取りあげるが、敬四郎は手柄を横取りし、右門を追い払う。死骸にすがって泣く、落としまゆの女も引っ立てられた。右門は家の中を調べて、真新しい位牌と、赤、白、黄に染めた玉と、二の目に細工をしたいかさまのさいころを見つける。伝六の聞きこみで、一家はかつお節問屋の家筋で、代々気の病が絶えず、暮れに越してきてすぐ跡取り夫婦が首をつったこと、気のふれた若者は末の弟、落としまゆの女は嫁いだ姉娘であること、そして祖母がいるはずなのに姿が見えないことがわかる。敬四郎は女を責めて、その夫の玉ころがし屋を捕らえ、子殺しを白状させた。夫は細ひもで子どもたちを絞め殺したうえで出刃で突き刺し、もちを餌に気のふれた叔父を死骸の番に立たせていたのである。しかし祖母の行方はわからぬまま、夫は牢で舌をかみ切ってしまう。右門は浅草で玉ころがしの店を張り、慌てて駆けだした仲間のあとをつけて、本願寺裏のだんだら団兵衛一家に踏みこみ、つづらの中から縛られた祖母を救い出す。玉ころがし屋は、先代の残した一万両を手に入れるため、孫を絶やし、祖母に身代を譲れと責めていたのだった。
登場人物
- 近藤右門 南町奉行所の同心。むっつり右門。喪中で年賀を欠礼している
- 伝六 右門の手下の岡っ引き。亡き弟分を思い出しては泣く
- あばたの敬四郎 右門と功名を争う同心。奉行の内命を受けて事件を手がける
- 気のふれた若者 殺された子どもたちの叔父。出刃包丁を手に死骸のそばにいる
- 落としまゆの女 二十七、八の色っぽい女。子どもたちの亡骸にすがって泣く
冒頭部(原文より)
1 ――その第二十一番てがらです。 事件の起きたのは、年を越して、それも松の内の二日。 「めでたさも中ぐらいなりおらが春」――というのが俳諧寺一茶の句にありますが、中ぐらいでも、下の下の下々であっても、やりくり、七転八倒、夜逃げの名人であろうと、年が明けたとならばともかくもめでたいというよりいいようはない。ましてや、上の上の上々の大名諸侯が、言いようもなくめでたいのはあたりまえなことなので、だからこの二日の日がめでたすぎるそれらお歴々の、三百二十八大名全部が、将軍家へお年賀言上のために総登城する定例なのでした。
「右門捕物帖 妻恋坂の怪」佐々木味津三(青空文庫)
末尾部(原文より)
伝六のよろこぶこと、溜飲をさげること! 「ほい! どきな! どきな! 初荷だよ! 初荷だよ!」 主従ふたりが戸を並べて出ていったその表の通りを、いなせに景気のいい江戸まえの初荷が、景気よくいなせに呼んで通りすぎました。 ――なお、これは余談ですが、まもなく本郷妻恋坂の片ほとりに、三体の子ども地蔵が安置されて、朝夕、これに向かって合掌看経を怠らぬ年老いた尼と、年若い尼のふたりが見うけられました。老尼はいうまでもなくあの老婆、若尼は不良の夫をいさめてついにいさめきれなかったあの落としまゆの女でした。もちろん、みなこれらのことは、わが捕物名人の情けある計らいによった結果です。
「右門捕物帖 妻恋坂の怪」佐々木味津三(青空文庫)
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