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魚河岸(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物

魚河岸の夜と鏡花の影

  • 心理

芥川龍之介 1922年(大正11年)8月 「婦人公論」

文字数
2,121字
読了目安
約4分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

芥川龍之介の短編。保吉とその友人たちが、春の夜に魚河岸の洋食屋に入り、一人の客を見かける小品。保吉が客を泉鏡花の小説に出てくる悪役のようだと見る場面が中心で、近代の東京の下町に残る人間関係の気配が描かれる。「保吉もの」と呼ばれる系列の一編で、大正11年8月、「婦人公論」に掲載された。

あらすじ

去年の春の夜九時ごろ、保吉は俳人の露柴、洋画家の風中、蒔絵師の如丹と魚河岸を歩く。みな酔っていた。四人は河岸のはずれの洋食屋に入り、白木の卓で平貝のフライを肴に酒を飲む。そこへ中折帽に毛皮襟の肥った客がぬっと入ってきて席に割りこむ。保吉はこれを泉鏡花の小説なら芸者に退治される敵役だと思う。ところが客は、河岸の丸清の旦那である露柴に「幸さん」と呼ばれ、驚いて当惑し、機嫌をうかがいはじめる。保吉は鏡花の小説は死んでいないと思いながらも、店を出るとなぜか心が沈んでいた。

登場人物

冒頭部(原文より)

 去年の春の夜、――と云ってもまだ風の寒い、月の冴えた夜の九時ごろ、保吉は三人の友だちと、魚河岸の往来を歩いていた。三人の友だちとは、俳人の露柴、洋画家の風中、蒔画師の如丹、――三人とも本名は明さないが、その道では知られた腕っ扱きである。殊に露柴は年かさでもあり、新傾向の俳人としては、夙に名を馳せた男だった。  我々は皆酔っていた。もっとも風中と保吉とは下戸、如丹は名代の酒豪だったから、三人はふだんと変らなかった。ただ露柴はどうかすると、足もとも少々あぶなかった。我々は露柴を中にしながら、腥い月明りの吹かれる通りを、日本橋の方へ歩いて行った。

「魚河岸」芥川龍之介(青空文庫)

末尾部(原文より)

鏡花の小説は死んではいない。少くとも東京の魚河岸には、未にあの通りの事件も起るのである。  しかし洋食屋の外へ出た時、保吉の心は沈んでいた。保吉は勿論「幸さん」には、何の同情も持たなかった。その上露柴の話によると、客は人格も悪いらしかった。が、それにも関らず妙に陽気にはなれなかった。保吉の書斎の机の上には、読みかけたロシュフウコオの語録がある。――保吉は月明りを履みながら、いつかそんな事を考えていた。

「魚河岸」芥川龍之介(青空文庫)

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