嘘(太宰治)のあらすじ・登場人物
男は嘘を、女は慾を捨てよ
- 心理
- 文字数
- 8,363字
- 読了目安
- 約17分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 青森県
この作品について
太宰治が戦後まもなく発表した短編。空襲で焼け出され、津軽の生家に疎開していた「私」が、旧友である町の名誉職の男と交わす、人間の「嘘」と「慾」をめぐる問答。素朴で正直な男の言葉に、都会暮らしの饒舌を撃たれる一編である。
あらすじ
「男は嘘をつく事をやめて、女は慾を捨てたら、それでもう日本の新しい建設が出来ると思う」——空襲で焼け出され、津軽の生家に居候となって鬱々としていた「私」は、ひょっこり訪ねてきた小学校時代の同級生——いまはこの町の名誉職を務める男に向かって、そんな八つ当りの愚論を吐く。すると男は笑って、「いや、ごもっとも。しかし、それは、逆じゃありませんか。男が慾を捨て、女が嘘をつく事をやめる、とこう来なくてはいけません」と、いやにはっきり反対する。たじろぐ「私」と、素朴で正直な名誉職の男との、かみ合わないようでいて核心を突く問答が続いていく。過去十五年の東京生活で一度も聞かなかった「正直な響きを持った言葉」に、「私」は思わず微笑する——都会の饒舌と田舎の実直を対比させながら、人間の嘘と慾を見つめた、太宰戦後の一編である。
登場人物
- 私 焼け出されて津軽に疎開した作家
- 名誉職の男 私の小学時代の同級生
冒頭部(原文より)
「戦争が終ったら、こんどはまた急に何々主義だの、何々主義だの、あさましく騒ぎまわって、演説なんかしているけれども、私は何一つ信用できない気持です。主義も、思想も、へったくれも要らない。男は嘘をつく事をやめて、女は慾を捨てたら、それでもう日本の新しい建設が出来ると思う。」 私は焼け出されて津軽の生家の居候になり、鬱々として楽しまず、ひょっこり訪ねて来た小学時代の同級生でいまはこの町の名誉職の人に向って、そのような八つ当りの愚論を吐いた。
「嘘」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
名誉職は笑わずに首をかしげた。それから、まじめにこう答えた。 「そんな事はありません。」とはっきり否定し、そうして、いよいよまじめに(私は過去の十五年間の東京生活で、こんな正直な響きを持った言葉を聞いた事がなかった)小さい溜息さえもらして、「しかし、うちの女房とあの嫁とは、仲が悪かったです。」 私は微笑した。
「嘘」太宰治(青空文庫)
原文を読む
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