夜長姫と耳男(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
好きなものは呪うか殺すか争うか
- 幻想
- 怪奇
- 文字数
- 27,584字
- 読了目安
- 約55分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
坂口安吾が1952年(昭和27年)、「新潮」に発表した短編。飛騨随一の名人の跡を継いで、美しくも残酷な夜長姫のために仏像を彫ることになった若い工匠・耳男。少女の無邪気な残酷さと、それに翻弄される耳男の執念とがせめぎ合う、安吾ならではの妖しくも鮮烈な物語である。愛と憎しみ、美と残酷の逆説を、神話的な迫力で描いた代表作である。
あらすじ
飛騨随一の名人とうたわれた工匠(タクミ)が、老病で死期の近づいたとき、夜長の長者に招かれる。親方は身代わりに、二十歳の若者「オレ」——耳男を推薦する。親方と並ぶ飛騨の名工、青笠・古釜と技を競うことになった耳男が対面したのは、夜長の長者の娘・夜長姫。美しくも、無邪気に残酷な少女だった。姫のために仏像を彫ることになった耳男は、兄弟子たちへの対抗心と、姫への複雑な思いから、仏(ミロク)ではなく、天井に蛇を吊るして眺めながら、おぞましい化物を彫りあげていく。少女の残酷な無邪気さと、それに翻弄されながらも執念を燃やす耳男——二人の奇妙な関わりは、やがて衝撃的な結末へと向かう。「好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ。お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ」——耳男に刺された夜長姫は、そう囁いて、笑って目を閉じる。オレは姫を抱いたまま気を失って倒れる。愛と憎しみ、美と残酷の逆説を、神話的な迫力で描いた、安吾の代表的短編である。
登場人物
- 耳男(オレ) 仏像を彫ることになった若い工匠
- 夜長姫 美しくも残酷な長者の娘
- 青笠・古釜 耳男の兄弟子
冒頭部(原文より)
オレの親方はヒダ随一の名人とうたわれたタクミであったが、夜長の長者に招かれたのは、老病で死期の近づいた時だった。親方は身代りにオレをスイセンして、 「これはまだ二十の若者だが、小さいガキのころからオレの膝元に育ち、特に仕込んだわけでもないが、オレが工夫の骨法は大過なく会得している奴です。(……)力のこもった仕事をしますよ」
「夜長姫と耳男」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
するとヒメはオレの手をとり、ニッコリとささやいた。 「好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ。お前のミロクがダメなのもそのせいだし、お前のバケモノがすばらしいのもそのためなのよ。いつも天井に蛇を吊して、いま私を殺したように立派な仕事をして……」 ヒメの目が笑って、とじた。 オレはヒメを抱いたまま気を失って倒れてしまった。
「夜長姫と耳男」坂口安吾(青空文庫)
名文
好きなものは咒うか殺すか争うかしなければならないのよ。
耳男に胸を刺された夜長姫が、息絶える間際に告げる言葉。無邪気な残酷さを持つ姫と、彼女を恐れながら惹かれる匠との物語が、美と恐怖の一体となったこの一言に行き着く。
原文を読む
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