雪柳(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
待合と尼と一本松の怪
- 怪奇
- 幻想
- 文字数
- 45,069字
- 読了目安
- 約1時間30分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
昭和12年(1937)12月、『中央公論』に発表された泉鏡花の晩年の怪異譚。筆者が古本の写本「近世怪談録」から紹介する江戸の怪談を前置きに、金沢出身の彫刻家、小山直槙(獅子屋さん)から聞いた、待合「雪の家」と灸をすえる尼、麻布の一本松をめぐる不思議な体験を語る、入れ子構造の長編。
あらすじ
筆者は夜店で買った写本「近世怪談録」を紹介する。首尾の松の舟に縋る白い手、浅間山麓を走る火の車、浅草新堀の寺の裏で出会った女、大森の屋敷に誘い込まれる大工馬五郎の話。それに続いて、筆者は同郷の彫刻家、小山直槙(弥作)が実際に体験した出来事を、彼自身の口から聞いたとして記す。若い頃、直槙は金沢から上京し、友人の間淵洞斎の下宿に転がり込んだ。洞斎は「大船を一艘積み出す」が口癖の貧乏学生で、秘蔵の「魔道伝書」を持っていた。そのころ洞斎が妻に迎えた若い娘お冬を、直槙は一度だけ見た。二十数年後、洞斎の妹という灸の尼が訪ねてきて、麻布二の橋の待合「雪の家」へ誘う。そこには洞斎とお冬の娘お孝がいて、お冬も奥で病んでいる様子だった。尼が語る一本松の心中の唄に酔った直槙は、お冬に導かれて相合傘で夜の一本松へ向かい、不思議な魔法に落ちる。そこへ尼が現れ、二人を「畜生」と責めたてるが、「示現の灸」で救ってやると言い、直槙とお冬の胸に灸をすえようとする。直槙は暗がりの中で目を覚ますと、待合の開戸口から外へ出されていた。後日、直槙は二か月ほど寝つき、獅子を彫って一本松の社に奉納するが、牝の獅子は石段の途中で裂けてしまう。雪の家の女将は気を病み、尼は旅へ出て、雪の家は川崎へ越したという。直槙は三年前に亡くなった。
登場人物
- 小山直槙(弥作) 金沢出身の彫刻家。通称「獅子屋さん」
- 間淵洞斎 直槙の昔の友人。「大船を一艘積み出す」が口癖
- お冬 洞斎の若い妻。のち二の橋の待合の女将
- 間淵の妹(灸の尼) 「示現の灸」を施す、袴姿の尼
- お孝 洞斎とお冬の娘。待合「雪の家」の若いかみさん
冒頭部(原文より)
小石川白山のあたりに家がある。小山弥作氏、直槙は、筆者と同郷の出で、知人は渠を獅子屋さんと渾名した。誉過ぎたのでもありません、軽く扱ったのでもありません。 氏神の祭礼に、東京で各町内、侠勇の御神輿を担ぐとおなじように、金沢は、廂を越すほどの幌に、笛太鼓三味線の囃子を入れて、獅子を大練りに練って出ます。その獅子頭に、古来いわれが多い。あの町の獅子が出れば青空も雨となる。一の風を捲く。その町の獅子は日和を直す。が、まけるものか荒びは激しい、血を見なければ納まらないと、それを矜りとし名誉として、由緒ある宝物になっている。
「雪柳」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
直槙がなくなって、もう三年になる。 筆者は、あの時以来、一本松へはまだ行って見ないで居る。恐れて毛並は見定めなかった、坂を駆出したのは、残った獅子だったかも知れません。 だから、家へ帰って、少しばかり足を気にしたのも、そんなにお笑いにはなるまいと思う。………
「雪柳」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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