続戦争と一人の女(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
戦争は私の恋人だった
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 12,979字
- 読了目安
- 約26分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
空襲下の東京近郊で、同棲する男と暮らす「私」の目を通して、戦争末期から敗戦直後までを描いた坂口安吾の小説。「戦争と一人の女」の姉妹作として昭和21年11月、雑誌「サロン」に発表された。空襲を美しいと感じ、焼け跡に荒涼とした満足を覚える女の心が、露骨な語り口で綴られる。戦時下の人間のむき出しの欲と、平和がきたあとの空虚さを正面から見つめた、安吾の戦後初期の代表的な系列の一編である。
あらすじ
私は野村という男と暮らしている。戦争末期、近所の老人であるカマキリ親爺やデブ親爺とバクチを打ちながら、日本が負けることを疑わずに空襲の日々を過ごしている。カマキリは日本中が焼けることを願う悪魔的な敗戦希望者で、私は彼を嫌う一方、自分の中にも同じ願いがひそむことに気づいて落ち着かない。私は夜の空襲に魅せられ、地上の劫火だけが全心的な満足を与えてくれると感じていた。四月十五日の夜、ついに私たちの街が焼かれる。人々が逃げまどうなか、私は群れに混ざるのがいやで、野村にこの家を焼かないでほしいと叫ぶ。二人はバケツで水を運び、家を守り抜いて、庭にひっくり返ったまま満ち足りた虚しさに浸る。野村は日本は滅びると信じ、君が最後の女だと私に語る。やがて敗戦。私は取り返しのつかない遠い過去になった戦争を、失った恋人のように思い、退屈な平和が来ることを呪う。足を傷めた野村と焼け野原を歩きながら、今度は私が小型の爆弾になって男たちを困らせてやると笑い、二人もいつか別れるだろうと、自分の影を見るように思うのである。
登場人物
- 私 戦時下に野村と暮らす女。空襲に魅入られる
- 野村 私と暮らす男。滅びを覚悟している
- カマキリ親爺 町工場の主。日本中が焼けることを願う老人
- デブ親爺 井戸屋の老人
冒頭部(原文より)
カマキリ親爺は私のことを奥さんと呼んだり姐さんと呼んだりした。デブ親爺は奥さんと呼んだ。だからデブが好きであつた。カマキリが姐さんと私をよぶとき私は気がつかないふうに平気な顔をしてゐたが、今にひどい目にあはしてやると覚悟をきめてゐたのである。
「続戦争と一人の女」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
私は彼と密着して焼野の草の熱気の中に立つてゐることを歴史の中の出来事のやうに感じてゐた。これも思ひ出になるだらう。全ては過ぎる。夢のやうに。何物をも捉へることはできないのだ。私自身も思へばたゞ私の影にすぎないのだと思つた。私達は早晩別れるであらう。私はそれを悲しいことゝも思はなかつた。私達が動くと、私達の影が動く。どうして、みんな陳腐なのだらう、この影のやうに! 私はなぜだかひどく影が憎くなつて、胸がはりさけるやうだつた。
「続戦争と一人の女」坂口安吾(青空文庫)
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