語り手と視点とは
- 分類
- 文体・技法
- 読み
- かたりてとしてん
物語を語る役割を担う存在を語り手、物語がどの立場から語られるかを視点という。語り手は作者その人とは区別され、作者が作り出した、物語の中の声と考える。「私」が自分の体験を語る一人称の語りは、内面に近づける一方、「私」が知らないことは書けない。『こころ』の前半の「私」、『坊っちゃん』の向こう見ずな「おれ」、『吾輩は猫である』の猫のような語りがその例である。『こころ』では、後半が先生の書いた長い遺書になり、語り手が「私」から先生へと移ることで、前半では見えなかった内面が明かされる。作中の人物の外から全体を見渡して語るのが三人称の語りで、登場人物の心の中までを知る全知の語り手と、特定の人物の目に寄り添って語る語り手、外から見えることだけを描く語り手とに分けられる。語り手の知識や判断が偏っていて、語られることをそのまま信じられない場合もあり、芥川龍之介の『地獄変』では、絵師の物語を大殿に仕える者が語ることで、語り手自身の立場や思惑が読者に問いかけられる。『藪の中』は、同じ事件を複数の人物が、それぞれ異なる立場から語る形をとり、真実の曖昧さを描いた。太宰治は女性の一人称による独白の語りを好んで用い、語り手の声そのものを作品の魅力とした。どの視点で書くかは、小説の印象を大きく左右する。作品を読むときには、誰が、誰に向かって、いつの時点から語っているのかに目を向けると、物語の仕組みが見えてくる。