農民文学とは

分類
形式・ジャンル
読み
のうみんぶんがく

農村に生きる人々の労働と暮らし、その苦楽をありのままに描く文学。日本近代文学では、写生の歌人・長塚節が、茨城の貧しい小作農一家の生活を克明な写生の筆で描いた長編『土』(明治43年、東京朝日新聞)が記念碑的な先駆とされ、夏目漱石はこの作品を若い読者にぜひ読ませたい貴い書だと激賞した。大正11年(1922年)には吉江喬松・犬田卯・中村星湖らが農民文芸研究会(のち農民文芸会)をつくり、都市中心の文壇に対して、農民の生活に根ざした文学を唱えた。大正末から昭和にかけては、都市の労働者を描くプロレタリア文学と呼応しながら、農村の疲弊と農民の解放を主題とする農民文学運動が組織的に高まり、黒島伝治は故郷の小豆島の小作農たちが地主に抗う姿を描いた『豚群』(大正15年)を「文芸戦線」に発表している。花巻の農村でみずから耕し、農学校の教師も務めた宮沢賢治は、火山の犠牲となって人々を救う青年を描いた童話『グスコーブドリの伝記』や、理想の農村芸術を説いた『農民芸術概論綱要』に、大地に根ざした独自の世界観を刻んだ。昭和10年代には、島木健作が都会の学業を捨てて故郷の農村に帰った青年の模索を描く『生活の探求』(昭和12年)で広い読者を得たが、昭和13年(1938年)に結成された農民文学懇話会は、農林大臣の後援のもとで国策の大陸開拓文学にも結びついていった。土に生きる無名の人々へ注がれたまなざしは、近代文学に確かな厚みを加えている。

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