雨あがる(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
人が好すぎて損ばかりする夫婦
- 心理
- 文字数
- 21,802字
- 読了目安
- 約44分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
山本周五郎が1951年(昭和26年)、「サンデー毎日」の特別号に発表した短編。剣の腕は無双でありながら、人が好すぎて世渡りが下手なため仕官もかなわぬ浪人・三沢伊兵衛と、その妻おたよの情話。長雨で宿場に足止めされた伊兵衛は、貧しい足止め客たちのために、武士に禁じられた賭け試合で金を稼ぎ、皆に振る舞う。その剣技を見込まれて仕官の話が舞いこむが……。無欲で善良な人柄ゆえに損ばかりする夫と、それを誇りとする妻の姿を温かく描く。黒澤明の遺した脚本をもとにした映画(小泉堯史監督)の原作としても名高い。
あらすじ
剣術にかけては当代並ぶ者のない腕前を持ちながら、あまりに人が好く欲がないために、三沢伊兵衛はどこにも仕官できず、妻おたよとともに貧しい浪人暮らしを続けている。ある宿場で、あけたはずの梅雨が十五日も降り続き、伊兵衛たちは安宿に足止めされる。宿には同じように旅を止められた貧しい者たちが身を寄せあい、退屈と暗い気分に沈んでいた。彼らを励まそうと、伊兵衛は妻に止められながらも、武士の禁じ手である賭け試合(他流の道場を回って金を賭けた立ち合いをすること)に出かけ、たやすく金を稼いでは宿の一同にふるまい、酒宴を開いて場を明るくする。その折の見事な剣技をたまたま目にした土地の藩主が、伊兵衛をいたく気に入り、剣術指南役としての仕官を望む。夢のような話に妻は喜ぶが、やがて伊兵衛が金ほしさに賭け試合をしていたことが露見し、武士にあるまじき振る舞いとして仕官の話は立ち消えになってしまう。それでも伊兵衛は誰を恨むでもなく、おたよもまた、損ばかりするお人好しの良人をこよなく誇りに思う。雨のあがった空の下、二人は次の城下を望みながら、「こんどこそ」と明るく旅立ってゆくのだった。
登場人物
- 三沢伊兵衛 剣の腕は無双だが、人が好く無欲なため仕官のかなわぬ浪人。本作の主人公
- おたよ 伊兵衛の妻。貧しい暮らしのなかでも、善良な良人をこよなく誇りに思う
- 牛尾大六 伊兵衛の剣技にかかわる藩の武士
冒頭部(原文より)
もういちど悲鳴のような声をあげて、それから女の喚きだすのが聞えた。 ――またあの女だ。 三沢伊兵衛は寝ころんだまま、気づかわしそうにうす眼をあけて妻を見た。おたよは縫い物を続けていた。古袷を解いて張ったのを、単衣に直しているのである。
「雨あがる」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
「――あそこに見えるのは十万五千石の城下ですよ、土地は繁昌で有名だし、なにしろ十万五千石ですからね、ひとつこんどこそ、と云ってもいいと思うんだが、元気をだしてゆきましょう」 「わたくし元気ですわ」 おたよは明るく笑って、劬るように良人を見上げながら、巧みに彼の口まねをした。 「と云ってもいいと思いますわ」
「雨あがる」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
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