雨瀟瀟(永井荷風)のあらすじ・登場人物
秋の雨音に亡父と江戸を偲ぶ
- 心理
- 文字数
- 19,713字
- 読了目安
- 約39分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
永井荷風中期の名短編。1921年(大正10年)3月、「新小説」に発表された。小説とも随筆ともつかぬ独特の趣をもち、しとしとと降りしきる秋の雨を背景に、独り身の男の孤独と、滅びゆく江戸情緒への哀惜をつづる。妻と別れ妾とも切れて久しく独居する「わたし」が、夜半の雨音に誘われて亡き父の書斎に入り、古き文人の詩書や什器に亡父を偲ぶ――時代の変化に背を向け、失われゆく風雅を惜しむ荷風の心情が色濃くにじむ、抒情に満ちた一編である。
あらすじ
妻を離縁し、妾とも手を切ってから久しく独りで暮らす「わたし」は、立つ秋の肌寒さのなかで、これから先の自分の一生が、どんよりと曇って雨にもならず暮れてゆく秋の日のように、静かに終わってゆくのだろうと感じている。禁酒禁煙が叫ばれ、煎茶や煙草をたしなむ風雅までがすたれてゆく新しい時代にあって、彼はただ江戸以来の文化と情緒が失われていくのを寂しく眺めるほかない。ある夜半、滝のように屋根を打つ大雨の音に目を覚ました彼は、雨漏りを案じて家々を見てまわるうち、亡き父が生前に親しんだ離れの書斎へ入る。紫檀の机、水晶の文鎮、壁に掛かる詩幅――そこに残された父の面影と古き文人の世界に、彼はしばし心を遊ばせる。降りやまぬ秋雨の音のなかに、荷風は孤独を託ち、移りゆく世を嘆きつつも、その寂寥のうちに尽きせぬ詩情を汲み取ってみせるのだった。
登場人物
- わたし 妻とも妾とも別れ、久しく独り身を通す語り手。秋雨の夜、孤独のうちに亡父や失われゆく江戸情緒を偲ぶ
冒頭部(原文より)
その年の二百十日はたしか涼しい月夜であった。つづいて二百二十日の厄日もまたそれとは殆ど気もつかぬばかり、いつに変らぬ残暑の西日に蜩の声のみあわただしく夜になった。夜になってからはさすが厄日の申訳らしく降り出す雨の音を聞きつけたもののしかし風は芭蕉も破らず紫苑をも鶏頭をも倒しはしなかった。
「雨瀟瀟」永井荷風(青空文庫)
末尾部(原文より)
その中売宅記とでも題してまた書こう。
「雨瀟瀟」永井荷風(青空文庫)
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