青竹(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
関ヶ原の武士が秘めた恋と供養
- 歴史
- 文字数
- 14,630字
- 読了目安
- 約29分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 滋賀県
この作品について
山本周五郎が1942年(昭和17年)、「ますらお」に発表した時代小説。関ヶ原の合戦で、島津の侍大将・阿多豊後を討ちとめた若武者・余吾源七郎。徳川四天王の本多忠勝と井伊直政を前に語られる、その武功の陰に秘められた、ひそかな恋と供養の物語である。武士の一途な情を、青竹のようにすがすがしく描いた一編である。
あらすじ
慶長六年の夏、近江の佐和山城に井伊直政をたずねた本多忠勝は、別れの宴の席で、ふと「関ヶ原のおりに島津軍の阿多豊後を討ちとめた若者はこの席に出ているか」とたずねる。関ヶ原の激戦——退却する島津義弘を追う井伊軍の前に、身代わりとして立ちふさがった阿多豊後盛淳を討ちとめたのは、直政の兵の一部だったが、乱軍のなかで功名人が誰かは分からずじまいだった。忠勝が覚えているのは、四半の布に墨絵で蕪を描いためずらしい差物をつけた若武者——それが、直政の子・直孝の守役をつとめる余吾源七郎だった。恬淡で控えめな源七郎が、なぜあの差物に、のちに数珠を描き加えたのか。そこには、ひとりの女性への、ひそかな恋と供養の思いが秘められていた。「わたくしの妻はそのひと、ほかに余吾家の嫁はございません」「さしものに描き加えました数珠は、生涯そのひとに供養を忘れぬしるしでございます」——源七郎の告白に、老いた忠勝の眼からもはらはらと涙が落ちる。武士の一途な情を、青竹のようにすがすがしく描いた、山本の一編である。
登場人物
- 余吾源七郎 阿多豊後を討った若武者
- 本多忠勝 徳川四天王の一人
- 井伊直政 徳川四天王の一人
冒頭部(原文より)
慶長六年の夏のはじめ、近畿地方の巡察を命ぜられた本多平八郎忠勝は任をはたした帰途、近江のくに佐和山城に井伊直政をたずねて数日滞在した。ふたりは徳川家のはたもとで酒井榊原とともに四将とよばれ、いく戦陣ともに馬をならべて戦ってきたあいだがらである。
「青竹」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
「わたくしの眼には、いまなお美しいそのひとの姿がみえます、たったひと言きいただけですが、そのひとの声もまざまざと耳にのこっております。……わたくしの妻はそのひと、ほかに余吾家の嫁はございません」 「さしものに描き加えました数珠は、生涯そのひとに供養を忘れぬしるしでございます」 云い終ると同時に、かれは両手で眼を押えた、兵庫の老の眼からもはらはらと落つるものがあった。
「青竹」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
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