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或夜(永井荷風)のあらすじ・登場人物

駅の待合室に佇む行き場のない少女

  • 心理

永井荷風 1946年(昭和21年)10月

文字数
5,841字
読了目安
約12分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 千葉県

この作品について

永井荷風が戦後に書いた短編。姉の家に身を寄せる十七の少女・季子が、行き場のなさから、夕方の省線市川駅の待合室に一人腰かけている。帰りを待つ人々を眺めながら、身の置き所を探す少女の孤独を、荷風が静かに描いた一編である。

あらすじ

季子は、省線市川駅の待合室に入って腰かけた。だが、東京へもどこへも行くつもりはない。ただぼんやりと、しばらく腰かけていようというだけだ。この夏、姉の家の厄介になり始めてから、憂鬱になるたびに、彼女はふらりと外へ出て、映画館に入ったり、闇市を歩いたり、そして駅の待合室で休むことがあった。待合室では、勤め先から帰る夫を出迎える新妻や、女の帰りを待つ男の姿が目につく。十七になっても恋愛の経験のない季子には、それが羨ましくも厭わしくもない。ただ、遣り場のない眼を、そうした人々へ向けているだけだ。心の中にあるのは、「姉の家にはいたくない。どこか外に身を置くところはないものか」という、当てのない思いばかり——。行き場のない少女の孤独を、戦後の駅頭の情景のなかに写しとった、荷風晩年の静かな一編である。

冒頭部(原文より)

 季子は省線市川駅の待合所に入って腰掛に腰をかけた。しかし東京へも、どこへも、行こうという訳ではない。公園のベンチや路傍の石にでも腰をかけるのと同じように、ただぼんやりと、しばらくの間腰をかけていようというのである。

「或夜」永井荷風(青空文庫)

末尾部(原文より)

 やがて未練らしく立留って見たが、男の追掛けて来る様子はない。先程躓いた松の木の梢に梟か何かの鳴く声がしている。  季子はしょんぼりと一人家へかえった。

「或夜」永井荷風(青空文庫)

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