足軽奉公(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
足軽に身をやつす天下一の槍術家
- 歴史
- 文字数
- 13,956字
- 読了目安
- 約28分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
山本周五郎が1945年(昭和20年)、「講談雑誌」に発表した時代小説。天下一とうたわれる槍術の達人でありながら、あえて一介の足軽として奉公する男・右田藤六。その隠れた実力と、名君・阿部忠秋との、心と心のやりとりを描く。真の実力者は名利を求めず、という山本らしい主題がにじむ一編である。
あらすじ
足軽たちの弓の稽古を眺めていた右田藤六は、仲間の下馬評の的確さに思わずにっと笑う。「卵でも産みそうな腰つき」「餌差が鳥を覘っているよう」——足軽たちの腕前を仲間があけすけに評するのも道理、じつはこの藤六こそ、彼らより数段も腕の立つ、天下一とうたわれる槍術の達人だったのだ。それほどの実力者が、名利を求めず、あえて一介の足軽として奉公している。やがて藤六の隠れた実力は、名君・阿部忠秋の知るところとなる。忠秋は藤六を惜しみ、召し抱えようとする。物語の結び、忠秋は、みずからの望む女性・汀と、藤六の望む相手とを引き合わせるかたちで、粋なはからいを見せる。「高島藩では天下一の槍術家を足軽に抱えておるとな」——冷えた酒を代えさせる忠秋の声が、雪の降りしきる夜の御殿に、灯のともったような活気を与えるのだった。真の実力者の生き方と、それを見抜く名君の眼を描いた、山本の一編である。
登場人物
- 右田藤六 天下一の槍術家でありながら足軽奉公する男
- 阿部忠秋 藤六を惜しむ名君
冒頭部(原文より)
「なんだあの腰つきは、卵でも産もうというのかね」 「向うの男は餌差が鳥を覘っているようだ、それ、よく見当をつけろ」 「ああ外してしまった」 「まるでへた競べだねこれは」 右田藤六は思わずにっと笑った。足軽なかまの下馬評はなかなか穿っている、卵でも産みそうな腰つきとか、餌差が鳥を覘っているようだとか、みんないかにも適評で叱ることもできない。
「足軽奉公」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
「……余が望んだ汀をそのほうがつれてまいる、そのほうの望む藤六を余が貰う、これで五分と五分だ、……帰ったら三春侯に申上げて呉れ、高島藩では天下一の槍術家を足軽に抱えておるとな」 酒が冷えた、代えてまいれという忠秋の声は、しめやかになった御殿の内に、燈の点いたような活気を与えた。外はまだしきりに降る雪である。
「足軽奉公」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
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