あすなろう(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
明日をのぞむ市井の者の哀歓
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 19,543字
- 読了目安
- 約39分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
山本周五郎が1958年(昭和33年)、「小説新潮」に発表した時代小説。江戸・芝金杉の河岸を舞台に、闇に生きる者たちの姿を描く。「翌檜(あすなろう)」——明日は檜になろうと願いながら、ついになれぬ木の名に、報われぬ者たちの哀歓を託した、味わい深い一編である。
あらすじ
うすよごれた手拭で頬冠りをした百姓ふうの男が、夕暮れの芝金杉のかっぱ河岸を、往ったり来たりしていた。金杉川に面した片側町は涼み客で賑わっていたが、誰もその男に注意する者はいない。「灘久」という居酒屋から出てきた職人ふうの男に、百姓ふうの男がすばやく近寄り、何かを囁きあう——。江戸の場末を舞台に、闇に生きる者たちの、危うくも哀切な人間模様が描かれていく。「翌檜(あすなろう)」——明日は檜になろうと願いながら、ついに檜にはなれぬという木の名に、報われぬ者たちの哀歓が託される。物語の結び、霧のなかに一人の男の死体が転がっている。「やくざの喧嘩だな、どっかこの近所でやって、ここまで逃げて来て死んだんだろう」——通りかかった漁師が、血のよごれを踏まぬよう注意深く歩きながら、「番所で面倒なことがなけりゃあいいがな」とつぶやく。二人は霧の中を歩み去っていく。市井の底に生きる者たちの哀歓を、抑えた筆致で描いた、山本の一編である。
登場人物
- 百姓ふうの男 闇に生きる者
- 漁師たち 死体を見つける者
冒頭部(原文より)
うすよごれた手拭で頬冠りをした、百姓ふうの男が一人、芝金杉のかっぱ河岸を、さっきから往ったり来たりしていた。日はすっかり昏れてしまい、金杉川に面したその片側町は、涼みに出た人たちで賑わっていたが、誰もその男に注意する者はなかった。
「あすなろう」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
「やくざの喧嘩だな」と一人が云った、「どっかこの近所でやって、ここまで逃げて来て死んだんだろう」 「おい気をつけろ」と伴れが地面を指さして云った、「そこはよごれてるぞ、そら、こっちもだ、踏まねえようにしろよ」 初めの漁師は脇へよけ、注意ぶかく歩きながら云った、「番所で面倒なことがなけりゃあいいがな」 二人は霧の中を歩み去った。
「あすなろう」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
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