琵琶伝(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
白い鳥が名を呼ぶ悲恋
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 12,083字
- 読了目安
- 約24分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
初期の観念小説を代表する短編。1896年(明治29年)1月、雑誌「国民之友」に発表された。相思の従兄と引き裂かれ、家の義理から意に染まぬ婚礼をさせられた女の運命を描く。題名の琵琶は、二人のあいだを取り持った白い飼鳥の名である。若き鏡花の激しい情念が、緊迫した文語文で叩きつけられている。
あらすじ
床杯の座を立った新婦の顔から血の気が失せているのを、介添の女は見て驚いた。清川家のお通は、従兄の謙三郎と深く思い合う仲でありながら、亡父の代からの約束と義理のために、近藤重隆のもとへ嫁がされたのである。二人の情交を取り持ったのは、書斎の籠に飼われた純白の鳥・琵琶であった。婚礼の夜から床入りもせぬまま、お通は田舎の孤屋に一年ものあいだ幽閉される。出征を前にした謙三郎が、三晩も麻畑に身を隠して門を叩くが、番人の三原伝内は決して敷居を跨がせない。やがて兵たちが謙三郎を引き立てて去り、秋の暮、お通は墓地で思いもよらぬ光景を目にする。
登場人物
- お通 清川家の娘。従兄と思い合いながら意に染まぬ婚家へ嫁がされ、幽閉される
- 相本謙三郎 お通の従兄。予備兵として召集され、戦地へ発つ前に別れを告げに来る
- 近藤重隆 お通の良人となった尉官。お通に節操を強いる
- 三原伝内 孤屋の番人の親仁。主人の言いつけを守り、誰も敷居を跨がせない
- 琵琶 清川家に飼われた純白の鳥。お通の名を呼ぶ
冒頭部(原文より)
新婦が、床杯をなさんとて、座敷より休息の室に開きける時、介添の婦人はふとその顔を見て驚きぬ。 面貌ほとんど生色なく、今にも僵れんずばかりなるが、ものに激したる状なるにぞ、介添は心許なげに、つい居て着換を捧げながら、 「もし、御気分でもお悪いのじゃございませんか。」 と声を密めてそと問いぬ。
「琵琶伝」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
お通の口は喰破れる良人の咽喉の血に染めり。渠はその血を拭わんともせで、一足、二足、三足ばかり、謙三郎の墓に居寄りつつ、裏がれたる声いと細く、 「謙さん。」 といえるがまま、がッくり横に僵れたり。 月青く、山黒く、白きものあり、空を飛びて、傍の枝に羽音を留めつ。葉を吹く風の音につれて、 「ツウチャン、ツウチャン、ツウチャン。」 と二たび三たび、谺を返して、琵琶はしきりに名を呼べり。琵琶はしきりに名を呼べり。
「琵琶伝」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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