古書の呪い(チェスタトン)のあらすじ・登場人物
読めば消える一冊の本
- ミステリ
- 翻訳
- 文字数
- 16,116字
- 読了目安
- 約32分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
G・K・チェスタトンのブラウン神父ものの一編。原題は「The Blast of the Book」。心霊現象の研究で知られ、霊媒のいかさまを見破ることにかけては定評のあるオープンショウ教授は、霊が現れる話よりも、人がこつぜんと消える話のほうに説明のつかない謎があると考えはじめていた。そこへ、開いて読んだ者が消えてしまうという古書についての手紙を、アフリカ帰りの宣教師が寄せてくる。本の表紙には、のぞき見る者は飛び去る恐怖に襲われるという警句が記されている。怪奇の雰囲気をまといながら、人を見る目とは何かを問う一編。原作は短編集『ブラウン神父の醜聞』(1935年)に収められたシリーズ最後期の一編で、村崎敏郎の訳は1957年に早川書房のハヤカワ・ポケット・ミステリから刊行された同書の翻訳による。
あらすじ
心霊研究家のオープンショウ教授は、霊の出現より人の消滅こそ説明がつかないと考えていた。そこへ赤い顎ひげの宣教師ルーク・プリングルが事務所に現れ、西アフリカで見た出来事を語る。読めば姿を消すといわれる古書を船上で開いた男が海へ消え、それを持ち帰ったウエールズ大尉も、テントの中で本を開いたとたん、天幕を切り裂いて森へ消えたという。本の持ち主は東洋帰りのハンキー博士だった。プリングルは本を包んで外の事務室に置いてきたと言うが、二人が出ていくと、計算機のように黙々と働いていた事務員ベリッジの姿はなく、机には開かれた本、窓ガラスには人が飛び出したような穴があった。本を博士に返しに行ったプリングルの報告で、教授が博士の家を訪ねると、博士も本を残して消え、庭には義足らしい片足の跡だけが残っていた。さらにその夜、プリングルからも、自分で本を開くという電話を最後に連絡が絶える。五人が消えたと語る教授に、ブラウン神父は誰一人消えていないと告げる。プリングルは顎ひげと古マントで変装した事務員ベリッジ本人だった。教授は事務員の顔をまともに見たことがなく、色眼鏡を外しただけで見分けられなかったのである。船の男もウエールズ大尉も作り話で、ハンキー博士の家はベリッジが古い真鍮の表札と木の義足を使ってこしらえたものだった。家ではユーモアに富むベリッジは、人を見抜くと評判の主人が自分を見分けられないことを証明したかったのだ。神父は、事務所で本を見つけたときすぐ開いてみたが、中は真っ白だったと言って笑う。
登場人物
- ブラウン神父 オープンショウ教授の友人のカトリックの神父
- オープンショウ教授 心霊現象の研究者。霊媒のいかさまを見破る名人を自任する
- ルーク・プリングル 西アフリカ帰りの宣教師を名乗る赤ひげの男
- ベリッジ 教授の事務員。計算機のように働く目立たない男
- ハンキー博士 古書の元の持ち主とされる東洋帰りの医者
- ウエールズ大尉 西アフリカで本を開いたとされる役人
冒頭部(原文より)
オープンショウ教授は、もしだれかに心霊主義者だとか心霊主義の信者だとか言われると、ガタンと卓を叩いて、いつもかんしやくをおこすのであつた。しかし、これだけで持前の爆発がおさまるわけではなかつた。というのはもしだれかに心霊主義の否認者だと言われても、やはりかんしやくをおこしたからである。自分の一生をささげて心霊現象を研究してきたのは彼の誇りであつた。そういう心霊現象はほんとうに心霊の現われなのかそれとも単に自然現象の現われなのかそれを自分がどう思つているかについて絶対にヒントをあたえたことがないのも彼の誇りであつた。彼にとつて何よりも楽しかつたのは、熱心な心霊主義者の輪の中に坐つて、自分がどういう風にして霊媒の正体を次々とあばき立て、インチキを次々と見つけ出したかという話を徹底的にくわしく話してきかせることであつた。というのは実際彼は、一度目的物に目をつけたら最後、ひじような探偵能力と洞察力を発揮したし、いつも霊媒には、大いに怪しい目的物として、目をつけたからである。同じ心霊主義のペテン師が三つの違つた変装をしているのを見つけたときの話がある……女になつたり真白な顎ひげの老人になつたり、濃いチョコレート色のバラモン教徒になつたりしていたのであつた。こういう話をくわしく聞かされると、ほんとうの信者たちはかなりおちつかなくなつたが、実はそれが教授のねらいであつた。しかし心霊主義者だつてインチキな霊媒の存在を否定するわけではないから、別に文句は言えなかつた。ただ、なるほど教授のなめらかな話しぶりが、霊媒はみんなインチキだといわんばかりにきこえるのかもしれなかつた。
「古書の呪い」チェスタトン(青空文庫)
末尾部(原文より)
「どうもこりや当然の報いでしような……わしは一番手近の助手に気がつかなかつたのですからな。しかし、あんなふうに事件が積みかさなつてくると、なかなか恐ろしいものだということは認めていただかねばなりますまい。あなたはあの恐るべき本にホンの瞬間でも畏怖を感じた覚えが絶対になかつたのですか?」 「ああ、それじや」とブラウン神父は言つた。「わしは事務所に置いてあるのを見たとき、すぐ開けてみました。全部真白でした。ホレ、わしは迷信家ではありませんからな」
「古書の呪い」チェスタトン(青空文庫)
原文を読む
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