共産主義者の犯罪(チェスタトン)のあらすじ・登場人物
学寮の庭に座る二体の人形
- ミステリ
- 翻訳
- 文字数
- 20,478字
- 読了目安
- 約41分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
G・K・チェスタトンのブラウン神父ものの一編。原題は「The Crime of the Communist」。イギリスの古い大学のマンドビル学寮に、新しい経済学講座への寄付を申し出たアメリカとドイツの富豪が訪れる。食後の葡萄酒の席では、学寮長、会計係、ローマ史の教授、化学の教授らが、共産主義を説く経済学教授クレイクンをめぐって議論を交わし、その場に神父も居合わせている。チューダー朝の回廊と庭に囲まれた学寮の空気と、教授たちの思想の応酬がそのまま事件の背景となり、題名の「共産主義者」が何を指すのかという問いが最後まで読者を引っぱる。原作は短編集『ブラウン神父の醜聞』(1935年)に収められたシリーズ最後期の一編で、村崎敏郎の訳は1957年に早川書房のハヤカワ・ポケット・ミステリから刊行された同書の翻訳による。
あらすじ
マンドビル学寮では、新しい応用経済学講座の後援者であるアメリカの富豪ヘイクとドイツのフォン・チンメルン伯爵が学内を視察していた。食後の葡萄酒の席では、学寮長、会計係ベイカー、反動的なローマ史教授バイルズ、化学教授ウオダムらが、共産主義を説いて学生を煽る経済学教授クレイクンを話題にし、ブラウン神父は誤った教義がいつの間にか当然のこととして受け入れられていると不吉に語る。遅れて現れたクレイクンは富豪たちに毒づき、パイプを出したものの煙草を忘れたので、ベイカーから煙草とマッチを借りて、富豪たちに葉巻を届けに庭へ出ていく。まもなく神父たちが庭へ出ると、二人の富豪は椅子に座ったまま蝋人形のように硬直して死んでいた。葉巻の灰が毒を疑わせ、ウオダムが研究内容を問われてでたらめの化学式を答えたことから医者は彼を疑う。一方警察は、毒のマッチを持っていたクレイクンを逮捕した。だが神父は、クレイクンが富豪を毒殺して回るような男ではないと断言する。他人のマッチを返し忘れるという誰にでもある「共産主義的な」癖を利用し、毒を染ませたマッチをクレイクンに貸したまま渡した者がいる――それは会計係ベイカーだった。学寮の基金を扱うベイカーの不正を、実務にたけた富豪たちは短い時間で見抜いていたのである。ウオダムは次の戦争のための毒ガスを研究していることを隠したかっただけで、毒の材料もそこから出ていた。またクレイクンが自分では吸わなかったのは、古い学寮の流儀として葡萄酒を飲み終えないうちに煙草に火をつけることはしなかったからだと神父は言う。人生を奪い合いと見る、皆が慣れきった考えこそが殺人者を生んだのだった。
登場人物
- ブラウン神父 学寮の食卓に招かれていたカトリックの神父
- クレイクン マンドビル学寮の経済学教授。共産主義を説く
- 学寮長 若いころ社会主義者と親しんだ穏やかな人物
- ベイカー 学寮の会計係。実務家を自任する陽気な男
- バイルズ ローマ史の教授。極端な保守主義者
- ウオダム 化学の教授。研究の中身を語らない
- ギデオン・ヘイク 新講座を後援するアメリカの百万長者
- フォン・チンメルン伯爵 同じく後援者のドイツの富豪
- ブレイク博士 警察医
冒頭部(原文より)
三人の男がマンドビル学寮の柔らかい感じの正面にあるチュードル式の低いアーチの下から出てきて、いつ暮れるとも思えないような夏の夕方の日ざしをあびた。そしてその日ざしの中に、電光のようにはかない或る物を見た……命がけのショックと言つてもふさわしいものであつた。
「共産主義者の犯罪」チェスタトン(青空文庫)
末尾部(原文より)
「でもあなたは別にオクスフォードとは関係がないのでしよう?」医者が不思議そうにきいた。 「わしはイギリスと関係があります」とブラウン神父は言つた。「わしはイギリスの生れです。そしてとりわけ一番おかしいのは、たとえイギリスを愛しイギリスの国にいても、それでもこの国の正体は何が何やらわからないということです」
「共産主義者の犯罪」チェスタトン(青空文庫)
原文を読む
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