緑色の人(チェスタトン)のあらすじ・登場人物
三角帽の提督が浜を行く
- ミステリ
- 翻訳
- 文字数
- 21,070字
- 読了目安
- 約42分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
G・K・チェスタトンのブラウン神父ものの一編で、原題は「The Green Man」。村崎敏郎の訳で早川書房のポケット・ミステリ『ブラウン神父の醜聞』(1957年)に収められた。夕暮れの海辺のゴルフ場で、提督の秘書ハーカーが、三角帽に剣を帯びた正装の海軍士官二人が砂浜を歩くのを目にするところから始まる。帰るはずの提督は屋敷に戻らず、浜辺の居酒屋「緑人亭」の近くで騒ぎが持ち上がる。通信教育で何でも手早く覚えたがる秘書、無口な副官、陽気な伯母と物思いがちな令嬢など、人物の性格の描き分けが謎解きの手がかりにもなっている。
あらすじ
海辺の屋敷に住むクレイブン提督の秘書ハロルド・ハーカーは、夕暮れの砂浜を、正装に三角帽の提督と、そのあとを妙な足取りでつける副官ロジャー・ルーク大尉が歩くのを見る。ルークは剣を抜いて花の頭を打ち落としていた。その夜、提督は浜辺の居酒屋「緑人亭」近くの池から、緑色の浮きかすにおおわれた溺死体で引き上げられる。翌朝、ハーカーと警部が弁護士ダイクの事務所へ行くと、医師ストレイカーが、死因は細い刃物で心臓を刺されたことで、池に沈められたのは死後だと告げる。ハーカーはルークが剣を抜いたと言い立て、提督の娘オリーブに求婚する。オリーブは幼なじみのルークを信じたいと神父に打ち明ける。神父はルークに会いに行き、「悪いニュース」を伝える。すると陰気だったルークは喜びにあふれてオリーブのもとへ戻ってくる。遺言状を読む日、神父はハーカーとだけ話し、ハーカーはそのまま逃げ出す。皆が神父を責めると、神父は犯人は弁護士ダイクだと明かす。ダイクは提督の財産を詐取しており、それを知った提督が正装のまま上陸して彼を捕らえようとしたため、刺し殺して池に沈めたのだった。提督の死を聞いた事務所で、海から帰る途中の提督が「おぼれた」とだけ聞いて、ダイクがすかさず死体はどこで見つかったかと尋ねたことから、神父は彼が死体のありかを知っていると見抜いた。財産を失ったオリーブはもはや相続人ではない。金持ちの娘に頼る身を嫌ったルークは喜び、財産目当てだったハーカーは逃げたのである。ダイクは逮捕に来た警部の前で自殺し、オリーブとロジャーは子供のころのように夕暮れの浜で呼び合う。
登場人物
- ブラウン神父 オリーブに相談される小柄な神父
- マイクル・クレイブン提督 海辺の屋敷の主。航海から戻る途中だった
- ハロルド・ハーカー 提督の秘書。何でも手早く覚えたがる野心家
- ロジャー・ルーク 海軍大尉で提督の副官。陰気で無口な男
- オリーブ 提督の娘。ルークの幼なじみ
- マリオン 提督の妹。屋敷の家政を預かる
- ダイク 提督の顧問弁護士
- ストレイカー 提督の遺体を調べた医師
- バーンズ 地元の警部
冒頭部(原文より)
半ズボンの青年が、血色のいい熱心な横顔を見せながら、砂浜と海に平行したリンクで、独りゴルフを楽しんでいた。あたりは夕闇で灰色になりかけていた。青年はむぞうさにボールを打ちまくつているわけではなく、むしろ特殊のストロークを人目につかない激しさで練習しているのであつた……キチンと身ぎれいにした旋風という感じであつた。この青年はいろんなゲームを手早く習得していたが、ふつうより少しでも早く習得したい癖があつた。どうやらそのために、六回のレッスンでバイオリンを習得する法とか、通信教授で完全なフランス語の発音を身につけられる法とかいうたぐいの人目を引く広告の被害者になりがちであつた。彼はこういう希望に満ちた広告や冒険のいきいきした雰囲気の中で暮していた。目下は、このリンクと境を接している大庭園のうしろに大きな屋敷を持つている海軍提督マイクル・クレイブン卿の個人秘書であつた。なかなか大望があつたので、相手がだれであろうと個人秘書をいつまでも続けるつもりはなかつた。しかしまた理性的でもあつたので、秘書をやめる最上の方法は立派な秘書になることだと知つていた。したがつて彼は大へん立派な秘書であつた……提督の通信物がドンドン集まつてきてたまつたのを整理するのにも、ゴルフボールを相手にするときと同じようにすばやい一心不乱の精神集中法を用いていた。彼はいまのところひとりで適当に判断して通信物と取り組まなければならなかつた。というのは提督はこの六ヶ月来船に乗つていたからである。そして、もう帰途についていたが、まだ数時間のあいだは――あるいはことによると数日のあいだは――帰つてこないはずであつた。
「緑色の人」チェスタトン(青空文庫)
末尾部(原文より)
悲劇が喜劇を絶滅させるわけにいかないので、この二つが平行して見られるのは幸運である……そこでウイリス・ハードマン・アンド・ダイク事務所で実務を取つていた唯一の弁護士ダイク氏が、警部が自宅に押し入つて逮捕しようとすると、ピストルで頭を吹き飛ばしたあいだに、オリーブとロジャーは、子供の時一緒に遊んでいたとおりに、夕暮の砂浜でおたがいに大きな声で呼び合つていた。
「緑色の人」チェスタトン(青空文庫)
原文を読む
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