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村の吸血鬼(チェスタトン)のあらすじ・登場人物

噂の村に潜む本当の怪物

  • ミステリ
  • 翻訳

チェスタトン 訳者 村崎敏郎 1957年(昭和32年)

文字数
19,162字
読了目安
約38分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

G・K・チェスタトンのブラウン神父ものの一編で、原題は「The Vampire of the Village」。村崎敏郎の訳で早川書房のポケット・ミステリ『ブラウン神父の醜聞』(1957年)に収められた。舞台は百年前のままのような英国の奥地の村ポタス・ポンド。数年前、真紅の外套の伊達男が殺された一件が片づかないまま、村はずれの「お屋敷」に住む謎めいた美しい未亡人と、詩人である牧師の息子の噂でもちきりになっている。神父は医師マルボロに頼まれて村を訪ね、老嬢、弁護士、提督、旅役者くずれといった村人を一人ずつ訪ね歩く。噂話に明け暮れる閉鎖的な村の人々のものの見方が、皮肉をこめて描かれる。

あらすじ

数年前、奥地の村ポタス・ポンドで、真紅の外套に白い帽子という古風な身なりの男が「お屋敷」の下の岩場で死体となって見つかった。村を罵ったために若者に殴り殺されたとされ、事件は迷宮入りになっていた。いま村では、お屋敷に住む美しい未亡人マルトラバース夫人が、牧師サミュエル・ホーナーの詩人息子ハレルを誘惑したと噂されている。医師マルボロは、夫人が女優で、しかもあの殺された旅役者マルトラバースの未亡人だと突きとめる。頭の傷は致命傷ではなく、死体を掘り出すと毒が見つかった。神父は夫人、ハレル、老嬢キャルー、旅役者くずれのフィッツジェラルド、牧師、弁護士カーバーと提督を順に訪ね、ハレルが稼ぎで老いた父のぜいたくな暮らしを支えていること、牧師が女優に会うのをかたくなに拒むことを知る。神父の頼みで医師が牧師父子の前で毒殺を告げると、ハレルはいきなり牧師を殴り倒す。牧師の正体は旅回りの一座の老け役ハンキンだった。かつて一座が村に来たとき、ハレルはハムレットの演じ方や夫人への横暴をめぐってマルトラバースと争い、杖で殴り倒していた。ハンキンはそれを見ていて、ハレルが殺したと思いこませて金をゆすり、舞台衣装の牧師の姿のまま村に隠れ住んでいた。しかもマルトラバースを実際に殺したのは、意識を取り戻した彼にポートワインで毒を盛ったハンキンだったのである。神父は、牧師が国教会の習わしをちぐはぐに取り違えていること、女優を見るのではなく女優に見られるのを恐れていたことから、彼が舞台の上の牧師にすぎないと見抜いていた。

登場人物

冒頭部(原文より)

 丘の細道の曲り角に、二本のポプラがピラミッドのようにそびえ立つて、そのためにホンの一団の家のかたまりに過ぎない小さなポタス・ポンドの村がなおさら小さく見えていたが、ここを或る時歩いていたのは、大へん目立つた型と色の衣裳をつけた男であつた……あざやかな深紅色の外套を着て純白の帽子を真黒な神々しいほどの巻き毛の上にかたむけていた。巻き毛の先きはバイロン風のはなやかな頬ひげに続いていた。  なぜその男がこういう風変りな古風の服を着ていたか……しかもそれを当世風の気取つたような所さえあるかつこうで着ていたか……という謎は、最後に彼の不幸な運命の秘密を解決するときに解決された多くの謎の一つに過ぎなかつた。ここでの要点は、その男がポプラを通り過ぎたとき消えてしまつたように見えたことである……まるで青白い夜明けの光がひろがつてきた中に溶けこんでしまつたか、それとも朝風に吹き飛ばされてしまつたかのようであつた。

「村の吸血鬼」チェスタトン(青空文庫)

末尾部(原文より)

「もしあの夫人があのありがたいサミュエル・ホーナー師を見たら、とたんにこいつはちつともありがたくないハンキンという役者だと見破つたでしようからな……にせの牧師に変装した仮面のうしろにかなり悪い性格を隠していたのです。さて、これがあの素朴な村の田園詩の全部だと思います。したが、わしが約束を守つたことは認めていただけるでしような……わしは死体以上にゾクゾクするような物をあの村でお見せしました……毒をつめこんだ死体だつて、あれにはかないません。ゆすり男をつめこんだ牧師の黒服は少なくとも注目する価値がありますし、わしの見つけたこの生きている男は、あなたがあつかつた死んだ男以上に、地獄に落ちた男でした」 「ええ」医者は、クッションに気持よくよりかかりながら、言つた。「もし汽車の旅でちよつとした気持のいい道連れがほしかつたら、まだしもあの死体のほうがましですよ」

「村の吸血鬼」チェスタトン(青空文庫)

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