ブラウン神父の醜聞(チェスタトン)のあらすじ・登場人物
神父が醜聞にまみれた一夜
- ミステリ
- 翻訳
- 文字数
- 18,572字
- 読了目安
- 約37分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
G・K・チェスタトンのブラウン神父ものの一編で、原題は「The Scandal of Father Brown」。同じ題の短編集の表題作で、村崎敏郎の訳で早川書房のポケット・ミステリ『ブラウン神父の醜聞』(1957年)に収められた。舞台はメキシコの路傍のホテル。アメリカで名の知れた美しい人妻ハイペシア・ポターと、評判の悪い詩人ロマーニズとの噂を追って、清教徒気質の新聞記者エイガー・ロックが乗りこんでくる。冒頭で語り手が「神父が醜聞に巻きこまれた」と明かし、その一夜の出来事をたどる構成で、新聞が作り出す有名人や「ロマンス」への風刺が、謎そのものと結びついている。
あらすじ
アメリカの人気者ハイペシア・ポターと、メキシコに住む悪名高い詩人ルーデル・ロマーニズとの仲が噂になる。ミネアポリスの新聞記者エイガー・ロックはメキシコ国境近くのホテルへ向かい、丘の上でマントをまとった美男子と、こうもり傘を振り上げた顎ひげの小男が争うのを目にする。ロックはマントの男を詩人ロマーニズ、小男を夫ポターと思いこむ。ホテルでは小男が使用人に危険な男を入れるなと命じ、宿帳にはロマーニズとポター夫妻の名が並んでいた。ハイペシアに忠告したロックは、居合わせたイギリス人の神父ブラウンと言い合いになる。その夜、締め切られたホテルの扉を外から激しく叩く者がいた。やがて神父が部屋を譲ったハイペシアは、窓から縄ばしごで降り、マントの男と笑いながら闇へ消える。ロックは神父が駆け落ちを手伝ったと社へ電話するが、神父の説明はまるで逆だった。顎ひげの小男こそ詩人ロマーニズで、マントの美男子が夫のポターだったのである。ハイペシアは評判を求めて詩人と駆け落ちしたものの道中ですぐに嫌気がさし、ロマーニズは金で使用人を買収して夫を締め出していた。神父は追ってきた夫のもとへ妻を帰したのだった。ロックは訂正の電話を入れるが、最初の記事だけが世界中に広まり、「ブラウン神父の醜聞」はいつまでも訂正より半時間先を走りつづける。
登場人物
- ブラウン神父 メキシコのホテルに泊まり合わせたイギリス人の神父
- エイガー・ロック ミネアポリスの新聞記者。清教徒気質でロマンスを嫌う
- ハイペシア・ポター 新聞が持ち上げるアメリカの美しい人妻
- ルーデル・ロマーニズ 作品が発禁になるほど評判の悪い詩人
- ポター ハイペシアの夫。ピッツバーグの仲買人
冒頭部(原文より)
ブラウン神父の数々の冒険を記録しておきながら、この人が一度は重大な醜聞に巻きこまれたことがあるのを認めないでおくのは公平でなさそうだ。ブラウンの名前には汚点がついていると言う人が、おそらく坊さん自身のお仲間にさえ、いまだにあるくらいだからである。事が起つたのは、絵のように美しいメキシコの路傍にある、あとで明らかになるように、かなり評判の悪い旅館の中であつた。そして或る人々には、初めてこの坊さんが頭の奥のロマンチックな気分と人間らしい弱点に対する同情心に動かされてダラシのない不当な行動を取つたように見えたのであつた。話そのものは単純な話で、たぶん単純だからこそ驚くべき事だつたのであろう。
「ブラウン神父の醜聞」チェスタトン(青空文庫)
末尾部(原文より)
そこで二人のブラウン神父がおたがいに世界をまわつて永久に追い駆け合つている……第一のブラウンは正義の手を逃れようとする恥知らずの悪党だし、第二のブラウンは雪辱の後光にかこまれている、中傷で傷ついた殉難者である。しかし両方とも本物のブラウン神父にはちつとも似ていない。本物は、ちつとも傷ついたりしないで、一生頑丈なこうもり傘をさげてトボトボと歩きながら、世の中のたいていの人を愛し、世界を自分の仲間として受け入れるだけで、自分が人を裁く者だなどとは夢にも思わずにいるのである。
「ブラウン神父の醜聞」チェスタトン(青空文庫)
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