とけない問題(チェスタトン)のあらすじ・登場人物
庭の木に吊られた老人の謎
- ミステリ
- 翻訳
- 文字数
- 18,767字
- 読了目安
- 約38分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
G・K・チェスタトンのブラウン神父ものの一編。原題は「The Insoluble Problem」。怪盗から探偵に転じたフランボウが、殉教者聖ドロシーの遺物を収めた金とルビーの聖物箱を、名うての宝石泥棒から守る役目を引き受け、神父を誘って修道院のある町へ車を走らせる。途中に立ち寄った森の宿屋では、赤毛の女主人が「人殺しがあった」と二人を迎え、庭の木には不可解な姿の死体があった。嵐の迫る薄暗い庭の色彩の描写が不気味な印象を強める。旧友フランボウと神父の掛け合い、宗教や愛をめぐる神父の言葉も読みどころとなっている。原作は短編集『ブラウン神父の醜聞』(1935年)に収められたシリーズ最後期の一編で、村崎敏郎の訳は1957年に早川書房のハヤカワ・ポケット・ミステリから刊行された同書の翻訳による。
あらすじ
探偵となったフランボウは、聖ドロシーの遺物を収めた金とルビーの聖物箱が、宝石泥棒に狙われているため、キャスターベリの修道院へ届くまで護衛を頼まれ、ブラウン神父を連れ出す。神父はその朝、途中の宿屋緑龍亭の女から、来てくれ、来なくていい、やはり来てくれと三度電話を受けていた。宿に着くと、赤毛のフラッド夫人が人殺しだと叫び、義弟の医者オスカー・フラッドが、寝たきりの老祖父が庭で死んでいると告げる。老人はチューリップの木に吊られ、古い剣で胸を貫かれていた。フランボウは吊るしてから刺したと見るが、神父は縄の結び目では首が絞まらず、剣で刺されたときもすでに死んでいたと見抜く。花壇には、窓から跳び、片足で跳ね、横転したかのような不可能な足跡が残り、箒が立てかけてあった。フランボウは枕元の丸薬に目をつけ、医者の毒殺を疑い、ピストルで脅しに来た片目の庭師ダンを階段から投げ落とすが、神父は信仰を罵り「冒涜」という言葉を口にする夫人と話すと、すぐに立ち去ろうとする。医者と庭師に引き止められながらも二人は修道院へ急ぐ。神父の推理では、老人はベッドで安らかに死んだのであり、殺人などどこにもなかった。聖物箱を狙う宝石泥棒タイガー・チローンは夫人の夫で、フランボウと神父を足止めするために、家族が祖父の遺体を使って解けない謎の殺人現場をこしらえたのだった。その夜、修道院で人形の腕を使って聖物箱を奪おうとしたチローンの前に、フランボウが立ちふさがる。
登場人物
- ブラウン神父 カトリックの神父。フランボウに誘われて修道院へ向かう
- フランボウ もと大泥棒のフランス人。探偵に転じた神父の旧友
- フラッド夫人 宿屋緑龍亭を切り盛りする赤毛の女。夫は大陸に出張中とされる
- オスカー・フラッド 医学博士。夫人の義弟
- ダン 戦争で片目を失った庭師
- タイガー・チローン 聖物箱を狙う名うての宝石泥棒
冒頭部(原文より)
この変てこな事件――ブラウン神父が出合つた多くの事件の中でも或る意味で一番変てこな事件が起つたのは、たまたま例のフランス人の友達フランボウが犯罪商売から隠退して、犯罪調査者の商売を大元気で盛大に開業していたときであつた。偶然またフランボウは、泥棒としても泥棒捕獲者としても、どちらかといえば宝石泥棒を専門にしていて、この問題については、宝石の鑑定およびそれと同様に実際的な宝石泥棒の鑑定という点で、双方ともエクスパートだと認められていた。そこでこの物語がはじまる特別の日の朝、フランボウが友達の坊さんに電話をかけたのは、この問題についての彼の特殊な知識と、それだからこそ依頼を受けた特殊な任務に関係することであつた。
「とけない問題」チェスタトン(青空文庫)
末尾部(原文より)
ブラウンは目を上げて、香の煙とチラチラ光るロウソクの火のとばり越しに、聖別式が終りに近づいて行列が待つているのを見た。永遠に続く幾世紀ものあいだに蓄積された、時と伝統の豊かな感じが、一列一列動いてくる群衆と同じに、ブラウンの胸をしめつけるようにして通り過ぎた……そして一同の頭上高く、衰えることのない炎の花輪のように、恐ろしい深夜の太陽のように、聖物を飾る大きな顕示台が丸天井の影の暗闇を背にして燃え輝いているありさまは、さながら宇宙の真黒な謎を背景にして燃えているようであつた。というのは、人によつてはこの謎もまたとけない問題だと思いこんでいる人があるからである。そしてこの謎にもただ一つの解決しかないということを同じように確信している人もあるのである。
「とけない問題」チェスタトン(青空文庫)
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