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屏風はたたまれた(山本周五郎)のあらすじ・登場人物

忘れてしまえと父は言った

  • 恋愛
  • 心理

山本周五郎 1957年(昭和32年)10月 「文藝春秋」

文字数
11,959字
読了目安
約24分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

十年ちかく前、屏風を立てまわした部屋で七夜をともにした、顔も名も知らぬ女。その記憶に縛られたまま縁談を断り続けてきた男が、真相に近づいてゆく短編。父は「忘れてしまえ」と言うだけだった。山本周五郎の短編のなかでも忘れがたい一篇。

あらすじ

吉村弥十郎はその手紙を三度もらい、三度とも読むとすぐ捨てた。ちょうど北島との縁談がまとまったところなので、誰かのいたずらだろうと思ったからである。差出人は「ゆき」とだけ、内容はいつもきまっていた——自分はさる家の乳母だが、そだてた嬢さまがあなたをみそめ、おもいこがれるあまり病気のようになった、どうかいちど逢ってやってもらいたい、と。書いてあることはあまりに古風で型にはまりすぎている。「ふん、ひまなやつがいるものだ」と弥十郎は呟いた。……だが彼には、忘れられない記憶があった。十年ちかく前、屏風を立てまわした部屋で七夜をともにした女である。誰だかわからないまま、耳もとで囁かれた喉声と、熱い肌と、小柄で柔軟な躯つきだけが残っている。女は闇の中に音もなくあらわれ、いつも夜の明けるまえに去った。父も母も教えてはくれず、母は「まったく知らない」と言い、父は「忘れてしまえ」と言うだけだった。やがて千夜という名を知り、必ずたよりがあると信じた弥十郎は、北島から祝言をあげてよいと言って来ても断ってしまう。だがたよりは来ないまま年が明け、記憶のなまなましさばかりが誇張されてゆく。事の真相を知らされた夜、弥十郎は眼をつむった。その眼の裏で、一双の屏風がたたまれるのを見るように思うと、にわかに胸が軽くなった。

登場人物

冒頭部(原文より)

一  吉村弥十郎はその手紙を三度もらって、三度とも読むとすぐに捨てた。ちょうど北島との縁談がまとまったところなので、誰かのいたずらだろうと思ったからである。

「屏風はたたまれた」山本周五郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

 彼はその(つむった)眼の裏で、一双の屏風がたたまれるのを見るように思った。するとにわかに胸が軽く、呼吸がらくになるように感じた。弥十郎はそんな時刻に騒がせた詫びを云い、挨拶をして廊下へ出ると、佗しげに微笑しながら呟いた。 「そうだ、屏風はたたまれたのだ」そして父の口まねをした、「忘れてしまえ」

「屏風はたたまれた」山本周五郎(青空文庫)

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