毒もみのすきな署長さん(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
毒もみ取締りの署長さん
- 風刺
- 幻想
- 文字数
- 3,090字
- 読了目安
- 約6分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
毒もみ(毒で魚をとること)を厳しく取り締まる署長さんをめぐる、宮沢賢治には珍しいブラックユーモアの童話。プハラという架空の国を舞台に、脱力の展開と最後の一言の鮮烈さで、短いながら忘れがたい印象を残す一編である。
あらすじ
カラコン山の氷河から出た四つの谷川が集まって、プハラの国に一本の大きな川をつくっている。河原の沼には魚が多く、なかでもどじょうとなまずが増えていた。この国の第一条は「火薬を使って鳥をとってはなりません、毒もみをして魚をとってはなりません」。毒もみとは、山椒の皮ともみじの木灰をまぜたものを袋に入れ、水の中でもみ出して魚を浮かせる漁法である。それを取り締まることが警察のいちばん大事な仕事だった。ある夏、この町の警察に、どこか河獺に似た、赤ひげがぴんとはねた新しい署長さんが着任する。立派な口ひげと銀の入歯の署長さんは町の人気者となり、家に招かれては愛想よくふるまった。ところが、そのころから川で魚がたびたび死んで浮かびあがるようになる。子どもたちのあいだでは「あれは署長さんのしわざだ」という噂が立ちはじめた。町長さんが遠慮がちにその噂を伝えると、署長さんは椅子から飛びあがって「そいつは大へんだ。僕の名誉にも関係します。早速犯人をつかまえます」と言い、証拠はもうあがっていると請け合う。「もうおわかりですか」「よくわかってます。実は毒もみは私ですがね」。署長さんは落ち着いて鐘を叩き、第一等の探偵を呼んで自分を捕えさせた。裁判で死刑と決まり、巨きな曲った刀で首を落とされるとき、署長さんは笑って言った。「ああ、面白かった。おれはもう、毒もみのことときたら、全く夢中なんだ。いよいよこんどは、地獄で毒もみをやるかな」。みんなはすっかり感服した。
登場人物
- 署長さん 毒もみの取り締まりに来た、河獺に似た警察署長
- 町長さん 毒もみの噂を署長に伝える
- リチキ 剃刀を二梃しかもたない下手な床屋
冒頭部(原文より)
四つのつめたい谷川が、カラコン山の氷河から出て、ごうごう白い泡をはいて、プハラの国にはいるのでした。四つの川はプハラの町で集って一つの大きなしずかな川になりました。その川はふだんは水もすきとおり、淵には雲や樹の影もうつるのでしたが、一ぺん洪水になると、幅十町もある楊の生えた広い河原が、恐ろしく咆える水で、いっぱいになってしまったのです。
「毒もみのすきな署長さん」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
さて署長さんは縛られて、裁判にかかり死刑ということにきまりました。 いよいよ巨きな曲った刀で、首を落されるとき、署長さんは笑って云いました。 「ああ、面白かった。おれはもう、毒もみのことときたら、全く夢中なんだ。いよいよこんどは、地獄で毒もみをやるかな。」 みんなはすっかり感服しました。
「毒もみのすきな署長さん」宮沢賢治(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。
同じ作家の作品
近い作品
- ロマネスク 1934年(昭和9年)11月
- 赤い蝋燭 1936年(昭和11年)11月
- ゼーロン 1931年(昭和6年)10月
- 木枯の酒倉から聖なる酔っ払いは神々の魔手に誘惑された話 1931年(昭和6年)1月
- 貝の穴に河童の居る事 1931年(昭和6年)9月
- 吊籠と月光と 1930年(昭和5年)3月