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どんぐりと山猫(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物

山猫から届いた裁判への招待

  • 幻想

宮沢賢治 1924年(大正13年)12月 「書き下ろし」

文字数
6,334字
読了目安
約13分
表記
新字新仮名

この作品について

1924年刊の宮沢賢治の童話集『注文の多い料理店』に収められた一編。ある土曜日、一郎の家に山猫から奇妙なはがきが届く。翌日の面倒な裁判に来てほしいという招待に胸を躍らせ、少年は山へ向かう。栗の木や滝、きのこたちに道を尋ねながら進むうち、森の草地で待っていたのは、自分こそ一番偉いと言い張るどんぐりたちだった。自然のものが言葉を話すことに、一郎は驚いて立ち止まることなく、挨拶し、お礼を言って歩いてゆく。その素直な冒険の楽しさと、裁判を取り仕切る山猫たちのもったいぶった振る舞いとの取り合わせが可笑しい。頭の形や体の大きさを持ち出す言い争いには、人間の競争や見栄も映り込む。繰り返される会話と、風、楽隊、鈴の音が文章に弾みをつけ、声に出しても味わえる童話。秋の山の鮮やかな色彩に包まれながら、「偉さ」とは何かという不思議な裁判に招かれる。

あらすじ

ある土曜日の夕方、一郎のもとに山猫から、字もまるで下手なおかしなはがきが届く。「めんどなさいばんしますから、おいでんなさい」。うれしくてたまらない一郎は、翌朝、栗の木や笛ふきの滝、きのこの楽隊、りすに山猫の行方を尋ねながら、谷川に沿って山の奥へのぼっていく。榛の木の下の草地では、黄金色のどんぐりが三百ほども集まって、頭のとがったのがえらい、丸いのがえらい、大きいのが、背の高いのがと、誰がいちばんえらいかで三日も争い続けており、裁判長の山猫もすっかり手を焼いていた。一郎は山猫に耳打ちする。「いちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないようなのが、いちばんえらい」。山猫がそのとおり申し渡すと、どんぐりたちはしいんと静まり返ってしまった。感心した山猫が名誉判事になってほしいと頼むと、一郎は承知する。山猫はこれからのはがきに「出頭すべし」と書いてよいかとも尋ねるが、一郎は笑って、その文句はやめた方がよいと答える。黄金のどんぐり一升をお土産に、きのこの馬車で家まで送られた一郎のもとへ、山猫のはがきは、それきり二度と来なかった。

登場人物

冒頭部(原文より)

おかしなはがきが、ある土曜日の夕がた、一郎のうちにきました。 かねた一郎さま 九月十九日 あなたは、ごきげんよろしいほで、けっこです。 あした、めんどなさいばんしますから、おいで んなさい。とびどぐもたないでくなさい。 山ねこ 拝  こんなのです。字はまるでへたで、墨もがさがさして指につくくらいでした。けれども一郎はうれしくてうれしくてたまりませんでした。

「どんぐりと山猫」宮沢賢治(青空文庫)

末尾部(原文より)

馬車が進むにしたがって、どんぐりはだんだん光がうすくなって、まもなく馬車がとまったときは、あたりまえの茶いろのどんぐりに変っていました。そして、山ねこの黄いろな陣羽織も、別当も、きのこの馬車も、一度に見えなくなって、一郎はじぶんのうちの前に、どんぐりを入れたますを持って立っていました。  それからあと、山ねこ拝というはがきは、もうきませんでした。やっぱり、出頭すべしと書いてもいいと言えばよかったと、一郎はときどき思うのです。

「どんぐりと山猫」宮沢賢治(青空文庫)

名文

「よろしい。しずかにしろ。申しわたしだ。このなかで、いちばんえらくなくて、ばかで、めちゃくちゃで、てんでなっていなくて、あたまのつぶれたようなやつが、いちばんえらいのだ。」

誰がいちばんえらいかを言い争うどんぐりたちに、一郎の入れ知恵を受けた山猫が下す判決。価値の物差しをひっくり返してみせる、賢治の思想がもっとも端的に出た場面。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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