フランドン農学校の豚(宮沢賢治)のあらすじ・登場人物
豚に迫られた、死亡承諾書への署名
- 幻想
- 社会
- 文字数
- 11,546字
- 読了目安
- 約23分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
農学校で飼われる一匹の豚が、自分が殺されて肉になる運命を悟り、恐怖におののきながら「死亡承諾書」への署名を迫られる——宮沢賢治がもっとも苛烈に「食べること」を問うた童話。人間の側の理屈と、豚の側の生の実感が、容赦なくすれ違ってゆく。菜食への傾斜を深めた賢治の思想が、寓話のかたちで結晶している。
あらすじ
フランドン農学校で飼われている一匹の豚は、水でもスリッパでも藁でも、金石以外のものならなんでも脂肪と蛋白質に変えてしまう。ある夕方、化学を習った一年生が「豚のからだはまあたとえば生きた一つの触媒だ。白金と同じことなのだ」と言うのを聞き、豚は自分の体が二十貫で六十万円になると計算して、第一流の紳士だと得意になった。だがやがて、その計算の意味を豚は理解しはじめる。ある日、校長がやってきて、豚に「死亡承諾書」への署名を求めた。法律で家畜を殺すには本人の承諾が要ることになったからだという。豚は恐怖におののき、泣き、絶食し、拒みつづける。だが畜産の教師は餌を減らし、校長は毎日やってきては「サインしろ」と迫る。ついに追いつめられた豚は、震える前肢で承諾書に印をつけてしまう。以後、豚はひたすら太らされる。運動を止められ、脂肪を蓄えさせられ、そして雪の朝、洗われて連れ出された。天上でキーンという鋭い音が鳴り、横ではごうごう水が湧く。畜産の教師が大きな鉄槌を持ち、息をはあはあ吐きながら青ざめて立っている。豚はクンクンと二つ鼻を鳴らして動かなくなった。「一体この物語は、あんまり哀れ過ぎるのだ。もうこのあとはやめにしよう」——そう言いながら賢治は、八つに分けられて雪に埋められた豚の上に、冷たく光る弦月をかけてみせる。
登場人物
- 豚 フランドン農学校で飼われる
- 校長 死亡承諾書への署名を迫る
- 畜産の教師 豚を太らせ、最後に鉄槌を持つ
冒頭部(原文より)
以外の物質は、みなすべて、よくこれを摂取して、脂肪若くは蛋白質となし、その体内に蓄積す。」とこう書いてあったから、農学校の畜産の、助手や又小使などは金石でないものならばどんなものでも片っ端から、持って来てほうり出したのだ。
「フランドン農学校の豚」宮沢賢治(青空文庫)
末尾部(原文より)
一体この物語は、あんまり哀れ過ぎるのだ。もうこのあとはやめにしよう。とにかく豚はすぐあとで、からだを八つに分解されて、厩舎のうしろに積みあげられた。雪の中に一晩漬けられた。 さて大学生諸君、その晩空はよく晴れて、金牛宮もきらめき出し、二十四日の銀の角、つめたく光る弦月が、青じろい水銀のひかりを、そこらの雲にそそぎかけ……月はだまって過ぎて行く。夜はいよいよ冴えたのだ。
「フランドン農学校の豚」宮沢賢治(青空文庫)
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