婦人十一題(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
十一か月の十一人の女
- 恋愛
- 文字数
- 3,831字
- 読了目安
- 約8分
- 表記
- 旧字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
泉鏡花の小品集。末尾に「大正十二年一月―十一月」とあり、1923年の一月から十一月まで、月ごとに一人の女性を主役に据えた十一の短い場面を並べる。かるた会へ急ぐ若い女、雪の日の新婦、花見船の婦人、呪詛の女、蛍とともに窓辺に立つ夫人など、四季の景物と女の姿を華麗な文語調の散文で描く。筋よりも、場面の色彩と情緒を味わう作品。
あらすじ
一月から十一月まで、月ごとに一人の女性を主役に据えた十一の場面を並べた散文の連作。一月はかるた会へ急ぐ若い女と、茶の室で迎える夫人。二月は雪の日、嫁いだ家で湯に浸かる新婦。三月は浅蜊売りの声が聞こえる屋敷町で、庭に出て手を空へ伸ばす美しい女。四月は花見船の舷で向き合う二人の婦人。五月は雨の山の古社に夜ごと現れる呪詛の女。六月は富士の見える窓辺で、飛び込んだ蛍に包まれる夫人。七月は公園の池の納涼。八月は山深い岩の根で嘉魚を釣る若者と通りがかる人。九月は洪水の背戸で、許嫁に抱き上げられる娘。十月は薄月の宵、窓辺で秋の物思いにふける女。十一月は筧の水で洗い物をする十七ばかりの娘と、道を尋ねる旅の男。
冒頭部(原文より)
うまし、かるた會に急ぐ若き胸は、駒下駄も撒水に辷る。戀の歌を想ふにつけ、夕暮の線路さへ丸木橋の心地やすらむ。松を鳴らす電車の風に、春着の袖を引合す急き心も風情なり。やがてぞ、内賑に門のひそめく輪飾の大玄關より、絹足袋を輕く高廊下を行く。館の奧なる夫人の、常さへ白鼈甲に眞珠を鏤めたる毛留して、鶴の膚に、孔雀の裝にのみ馴れたるが、この玉の春を、分けて、と思ふに、いかに、端近の茶の室に居迎ふる姿を見れば、櫛卷の薄化粧、縞銘仙の半襟つきに、引掛帶して、入らつしやい。
「婦人十一題」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
折から櫨の眞紅なるが、其のまゝの肌着に映りて、竹堰の脛は霜を敷く、あゝ、冷たからん。筧の水を受くるとて、嫁菜の莖一つ摘みつゝ、優しき人の心かな、何のすさみにもあらで、其の盥にさしけるが、引とき衣の藍に榮えて、嫁菜の淺葱色冴えしを、菜畠の日南に憩ひて、恍惚と見たる旅の男。うかと聲を掛けて、棟あちこち、伽藍の中に、鬼子母神の御寺はと聞けば、えゝ、紅い石榴の御堂でせうと、瞼に色を染めながら。
「婦人十一題」泉鏡花(青空文庫)
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