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古狢(泉鏡花)のあらすじ・登場人物

因果のめぐる湯葉屋の釜

  • 怪奇

泉鏡花 1931年(昭和6年)7月

文字数
19,871字
読了目安
約40分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

泉鏡花の怪異談。末尾に「昭和六(一九三一)年七月」とある。久しぶりに帰省した、映画の台本などを書く「外套氏」が、親類の娘お町を相手に、前夜泊まった鹿落の温泉の洗面所で見た白い手と、料理屋「うぐい亭」の女中頭お藻代の悲劇を語る。鯛の競りの掛け声から始まる軽妙な導入と、艶と怪異が交差する後半との落差が特色。「狢の湯」や古い椎の木など、土地の言い伝えにちなむ題。

あらすじ

鯛の競りの声が響く市場で、帰省中の「外套氏」は親類の娘お町と、蓮池の跡を眺めながら語り合う。外套氏は、前夜泊まった鹿落の温泉で、三つ並んだ洗面所の真ん中の戸の裏に、うねる白い手を見たことを話す。お町はそれを、五年前に亡くなった料理屋うぐい亭の女中頭お藻代の手ではないかと言う。お藻代は、名古屋から来た客に強いられて遊びに出たあと、起き上がりざまの客が引いた盆から熱湯をかぶって顔に大火傷を負い、一生飼い殺しにされる約束で金を受け取った。鹿落に療養に出た夜、洗面所で不意に人に出くわし、恥ずかしさのあまり壁の破れ目から抜け出して、線路で顔のない遺体となって見つかったという。二人は蓮池跡の湯葉屋に入り、そこで、かつてこの家の坊ちゃんで、いまは名古屋の大資産家の婿になった男と出くわす。男こそ五年前の客だった。奥から現れた老婆が湯葉をかぶって舌を這わせると、男は煮えたぎる釜の湯に顔を沈められ、命は助かるものの、お藻代と同じ目に遭う。「魔は、鬼神は、あると見える」と語り手は結ぶ。

登場人物

冒頭部(原文より)

「しゃッ、しゃッ、しゃあっ!……」  寄席のいらっしゃいのように聞こえるが、これは、いざいざ、いでや、というほどの勢いの掛声と思えば可い。 「しゃあっ! 八貫―ウん、八貫、八貫、八貫と十ウ、九貫か、九貫と十ウだ、……十貫!」  目の下およそ八寸ばかり、濡色の鯛を一枚、しるし半纏という処を、めくら縞の筒袖を両方大肌脱ぎ、毛だらけの胸へ、釣身に取って、尾を空に、向顱巻の結びめと一所に、ゆらゆらと刎ねさせながら、掛声でその量を増すように、魚の頭を、下腹から膝頭へ、じりじりと下ろして行くが、 「しゃッ、しゃッ。」  と、腰を切って、胸を反らすと、再び尾から頭へ、じりじりと響を打たして釣下げる。これ、値を上げる寸法で。

「古狢」泉鏡花(青空文庫)

末尾部(原文より)

縦通りを真直ぐに、中六を突切って、左へ――女子学院の塀に添って、あれから、帰宅の途を、再び中六へ向って、順に引返すと、また向うから、容子といい、顔立もおなじような――これは島田髷の娘さんであった――十八九のが行違った。 「そっくりね。」 「気味が悪いようですね。」  と家内も云った。少し遠慮して、間をおいて、三人で斉しく振返ると、一脈の紅塵、軽く花片を乗せながら、うしろ姿を送って行く。……その娘も、町の三辻の処で見返った。春闌に、番町の桜は、静である。  家へ帰って、摩耶夫人の影像――これだと速に説教が出来る、先刻の、花御堂の、あかちゃんの御母ぎみ――頂餅と華をささげたのに、香をたいて、それから記しはじめた。

「古狢」泉鏡花(青空文庫)

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