拷問の話(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物
江戸の牢屋敷の拷問の記録
- 歴史
- 文字数
- 8,111字
- 読了目安
- 約16分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 随筆
- 舞台
- 東京都
この作品について
江戸の牢屋敷で実際に行われた拷問の種類と手順を、元町奉行所与力の証言をもとに岡本綺堂が書き記した一編。笞打・石抱・海老責・釣責という段階が、淡々とした筆致で語られる。時代小説の背景を知るうえでも貴重な記録である。
あらすじ
天保五年四月十二日、播州無宿の吉五郎が江戸の町方に捕われ、伝馬町の牢屋敷へ送られた。大阪で入墨・重敲きの仕置を受けた窃盗の常習犯である。仲間と江戸へ出て盗みを重ね、日本橋人形町の小間物屋で鼈甲の櫛四枚を盗み、故買屋に売り払ったことが発覚した。だが同類が一人も挙がっていないため、吉五郎はあくまで犯行を否認した。ここから、江戸の刑事手続きにおける拷問の実際が語られてゆく。笞打、石抱、海老責、そして最も苛烈な釣責。それぞれの方法と、実施にあたって医師が立ち会うこと、老中の許可が要ることなどが、元北町奉行所与力・佐久間長敬の教えをもとに具体的に説明される。吉五郎は、いかなる拷問にも屈しなかった。足かけ三年に及ぶ吟味の末、奉行所は「察斗詰」——本人の白状によらず状況証拠で罪を定める、士分には例のない稀有の手続き——を老中に申請し、再三の評議を経てようやく許可される。天保七年五月二十三日、吉五郎は死罪を申し渡された。牢内の役付きの者たちは、彼の最後を飾るべく新しい麻の帷子と汗襦袢と帯と白足袋を贈った。その晴衣を身につけて牽き出される吉五郎の背に、囚人一同が浴びせかけたのは、日本一、親玉、石川五右衛門という、あらゆる讃美の声々であった。
登場人物
- 吉五郎 最後まで拷問に屈しなかった播州無宿の盗賊
- 佐久間長敬 北町奉行所の与力。話のもとを伝えた
冒頭部(原文より)
天保五、午年の四月十二日に播州無宿の吉五郎が江戸の町方の手に捕われて、伝馬町の牢屋へ送られた。かれは通称を定蔵といって、先年大阪で入墨の上に重敲きの仕置をうけた者で、窃盗の常習犯人である。
「拷問の話」岡本綺堂(青空文庫)
末尾部(原文より)
しかし所詮は察斗詰であって、彼自身の白状ではない。かれは最後まで拷問に屈しなかったのである。牢内で役附の者どもは彼の最後を飾るべく、新しい麻の帷子に新しい汗襦袢と新しい帯と新しい白足袋とを添えて贈った。吉五郎はその晴衣を身につけて牢内から牽き出されると、それを見送る囚人一同は、日本一、親玉、石川五右衛門と、あらゆる讃美の声々をそのうしろから浴せかけた。
「拷問の話」岡本綺堂(青空文庫)
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