牛鍋(森鴎外)のあらすじ・登場人物
鍋を囲む本能の小さな争い
- 心理
- 文字数
- 1,852字
- 読了目安
- 約4分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
『心の花』1910年1月号に載った掌編。牛鍋を囲む男女と七、八歳の娘を、鍋の肉をめぐる箸の動きと、それぞれの視線だけで描く。末尾に、浅草の動物園の母猿と子猿の話を引き、「本能」という語が使われる。短い文を重ねた簡潔な筆致の、実験的な小品。
あらすじ
牛鍋が煮える。箸のすばしこい三十前後の男が、肉を反しては酒を飲み、同じ年頃の女が、永遠に渇しているような目でその顔を見つめながら酌をしている。傍らには、死んだ友達の一人娘の、七つ八つの娘が、割箸を持って待っている。娘が肉を挟もうとすると、男は「まだ煮えていねえ」と制し、そのまま自分で口に入れる。それを何度も繰り返されるうち、娘の目から驚きは消え、生きようとする本能が動いて、ある目的に向かう活動の目になる。やがて娘は手近な肉の一切れを挟んで口に入れ、男は叱らない。男の箸はこれから一層すばしこくなり、娘も黙って箸を動かす。女の箸だけは動かないままである。語り手は、浅草の動物園で母猿と子猿が芋を取り合う姿を挙げ、一つの本能は他の本能を犠牲にし、人は猿より進化していると結ぶ。
登場人物
- 男 箸のすばしこい三十前後の男。印半纏を着ている
- 女 男と同年配。永遠に渇しているような目で男を見る
- 娘 七つ八つ。死んだ男の友達の一人娘
冒頭部(原文より)
鍋はぐつぐつ煮える。 牛肉の紅は男のすばしこい箸で反される。白くなった方が上になる。
「牛鍋」森鴎外(青空文庫)
末尾部(原文より)
一の本能は他の本能を犠牲にする。 こんな事は獣にもあろう。しかし獣よりは人に多いようである。 人は猿より進化している。
「牛鍋」森鴎外(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。