はだかの王さま(アンデルセン)のあらすじ・登場人物
ばかには見えない着物
- 風刺
- 翻訳
- 文字数
- 5,335字
- 読了目安
- 約11分
- 表記
- 新字新仮名
この作品について
アンデルセンが1837年4月、『子どものための童話集』第1集の第3冊に「人魚姫」とともに収めた童話(原題「Kejserens nye Klæder」。副題の「皇帝のあたらしい着物」は原題の直訳にあたる)を、北欧文学者の矢崎源九郎が訳したもの(新潮文庫『マッチ売りの少女 アンデルセン童話集Ⅲ』)。下敷きになったのは14世紀スペインのフアン・マヌエルによる説話集『ルカノール伯爵』の一話で、アンデルセンは見えない布の条件を「自分の役目にふさわしくない者や、手のつけられないばか者には見えない」と改めた。新しい着物に目がない皇帝のもとへ、二人のうそつきが腕ききの機織りと称してやって来る。見えないと言えば自分の無能を認めることになる――正直者の大臣から町の人々まで、だれもが体面を守ろうとする心の動きを、からっぽの機を前にした会話の積み重ねで描いていく。題名はいまも、見て見ぬふりがまかり通る状況のたとえとして使われる。
あらすじ
むかし、新しいきれいな着物が何より好きで、一時間ごとに着替えるほどの皇帝がいた。ある日二人のうそつきが機織りと称してやって来て、自分の役目にふさわしくない人やばか者には見えない、ふしぎな織物を織れると言いふらす。皇帝は、これで役人の良し悪しや賢い者とばか者を見分けられると喜んで大金を与え、二人は上等の絹と金を自分たちの懐に入れて、からっぽの機に向かって働くふりをする。進み具合を見に行かされた年とった正直者の大臣は、何も見えないことにうろたえるが、ばか者と思われたくないので織物をほめちぎり、次に遣わされた役人も同じようにふるまう。皇帝自身も家来を連れて見に行き、何も見えないのに、皇帝にふさわしくないと思われるのを恐れて「じつにきれいじゃ」と言い、家来たちも口々にほめて、近く行われる行列でこの着物を着るようすすめる。行列の前の晩、うそつきどもは夜通し仕立てるふりをし、皇帝を裸にして見えない着物を一枚一枚着せるまねをする。皇帝は天がいの下を行列し、町の人々も見えないとは言えずに、すばらしいお着物だとほめそやした。そのとき小さな子どもが「なんにも着ていらっしゃらないじゃないの!」と言い、その言葉はささやきから町じゅうの叫びになる。皇帝もみんなの言うことのほうが本当のような気がしたが、いまさら行列はやめられないと、いっそう胸を張って歩きつづけ、侍従たちもありもしないもすそをささげて歩いていった。
登場人物
- 皇帝 新しい着物が何より好きな国の主
- ふたりのうそつき ばか者には見えない布を織ると称する機織り
- 年とった大臣 織物の見回りを命じられる正直者
- 小さな子ども 行列を見て、思ったとおりを口にする
冒頭部(原文より)
いまからずっとずっとむかしのこと、ひとりの皇帝がいました。皇帝は、あたらしい、きれいな着物がなによりも好きでした。持っているお金をのこらず着物に使って、いつもいつも、きれいに着かざっていました。皇帝は、自分のあたらしい着物を人に見せたいと思うときのほかは、兵隊のことも、芝居のことも、森へ遠乗りすることも、なにからなにまで、きれいさっぱり忘れているのでした。 とにかく、皇帝は、一日のうち一時間ごとに、ちがった着物に着かえるのです。ですから、よその国ならば、王さまは、会議に出ていらっしゃいます、というところを、この国ではいつも、「皇帝は、衣装部屋にいらっしゃいます」と、言いました。―― 皇帝の住んでいる大きな町は、たいへんにぎやかなところでした。毎日毎日、よその国の人たちが大ぜい来ました。
「はだかの王さま」アンデルセン(青空文庫)
末尾部(原文より)
「だけど、なんにも着ていらっしゃらないじゃないの!」と、だしぬけに、小さな子供が言いだしました。 「ちょいと。この罪のない子供の言うことを聞いてやっておくれ」と、その父親が言いました。そして、子供の言った言葉が、それからそれへと、ささやかれていきました。 「なんにも着ていらっしゃらない。あそこの小さな子供が言ってるとさ。なんにも着ていらっしゃらないって!」 「なんにも着ていらっしゃらない!」 とうとうしまいには、町じゅうの人たちが、ひとりのこらず、こうさけびました。これには、皇帝もこまってしまいました。というのは、みんなの言うことのほうが、なんだか、ほんとうのような気がしたからです。しかし、「行列は、いまさら、取りやめるわけにはいかない」と、思いました。 そこで、前よりもいっそう胸をはって、歩いていきました。侍従たちも、ありもしないもすそをささげて歩いていきました。
「はだかの王さま」アンデルセン(青空文庫)
名文
「わたしどもは、機織りでして、みなさんの思いもおよばない、美しい織物を織ることができます。それに、その織物は色とがらとが、びっくりするほど美しいばかりではございません。その織物でこしらえた着物は、まことにふしぎな性質をもっておりまして、自分の役目にふさわしくない人や、どうにも手のつけられないようなばかものには、この着物は見えないのでございます」
ふたりのうそつきの売り込み口上。見えないと言えば愚か者になるという仕掛けが、大人たちの見栄を次々にあぶり出していく。
「だけど、なんにも着ていらっしゃらないじゃないの!」と、だしぬけに、小さな子供が言いだしました。
アンデルセン『はだかの王さま』で最もよく知られる一言。だれもが口をつぐんでいた真実を、子供の素直な目が言い当てる。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。
同じ作家の作品
近い作品
- スリーピー・ホローの伝説
- リップ・ヴァン・ウィンクル
- 鱷 1865年1月
- まざあ・ぐうす 1921年(大正10年)
- 阿Q正伝 1932年(昭和7年)11月
- 狂人日記 1937年(昭和12年)6月