灰神楽(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
火鉢の灰に隠した策略
- ミステリ
- 文字数
- 13,267字
- 読了目安
- 約27分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
「大衆文藝」1926年3月号に発表された短編。恋敵を撃ち殺した貧乏画家が、証拠を消して逃げたあと、疑いをそらすために一計を講じる。犯人の側から事件の経過をたどる倒叙の形をとり、追いつめられた者の不安と楽観の揺れを描く。火鉢から立つ灰神楽が、事件の鍵になる。
あらすじ
貧乏画家の河合庄太郎は、同じ女性を想う奥村一郎から借金を断られ、口論のはずみで机の上の拳銃を手に取り、一郎を撃ち殺してしまう。火鉢の灰神楽が立ちこめる中、庄太郎は鳥おどしの空鉄砲のおかげで銃声が疑われなかったことに気づき、指紋を拭い取って現場を離れる。翌朝の新聞は他殺と報じ、恋人の目には疑いの色が浮かび、下宿には刑事の名刺が置かれていた。思案を重ねた庄太郎は、一計を案じる。事件の部屋を訪ね、一郎の弟で中学生の二郎に、火鉢の灰の中から泥で汚したボールを見つけ出してみせ、広っぱで二郎たちが打ったボールが障子の間から飛び込んで、一郎が拳銃を暴発させたのだと推理を聞かせたのである。二郎は自分の打ったボールが兄を死なせたと思い込んで苦しみ、庄太郎は成功を確信する。ところが翌々日、刑事と二郎、運動具店の番頭が下宿を訪れる。灰神楽で灰が固まったため、火鉢はすでに新しいものに取り替えられており、事件の火鉢にボールが落ちているはずがなかった。庄太郎は店でボールを買って自分で仕込んだことを見破られ、偽りの推理が動かぬ証拠になってしまった。
登場人物
- 河合庄太郎 恋敵を撃ち殺してしまう貧乏画家
- 奥村一郎 庄太郎の恋敵であり、金を援助していた男
- 奥村二郎 一郎の弟。広っぱで野球に興じる中学生
冒頭部(原文より)
一 アッと思う間に、相手は、まるで泥で拵えた人形がくずれでもする様に、グナリと、前の机の上に平たくなった。顔は、鼻柱がくだけはしないかと思われる程、ペッタリと真正面に、机におしつけられていた。そして、その顔の黄色い皮膚と、机掛の青い織物との間から、椿の様に真赤な液体が、ドクドクと吹き出していた。 今の騒ぎで鉄瓶がくつがえり、大きな桐の角火鉢からは、噴火山の様に灰神楽が立昇って、それが拳銃の煙と一緒に、まるで濃霧の様に部屋の中をとじ込めていた。
「灰神楽」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
「自分で入れて置いて、自分で探し出すのだから、訳ないや」二郎が大きな声で笑い出した。 庄太郎こそは、正に御念の入った「犯罪者の愚挙」を演じたものに相違なかった。
「灰神楽」江戸川乱歩(青空文庫)
原文を読む
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