白昼夢(江戸川乱歩)のあらすじ・登場人物
白昼の街に響く殺人の告白
- 怪奇
- 文字数
- 3,690字
- 読了目安
- 約7分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
江戸川乱歩が1925年(大正14年)、「新青年」に発表した短編小説。ある蒸し暑い晩春の午後、「私」が場末の大通りで見た、白昼の悪夢のような出来事を描く。薬屋の店先に立った一人の男が、群衆に向かって、妻を殺してその死体を隠していると、うわごとのように告白している――だが、警官はそれを狂人のたわごととして取り合わない。現実とも幻ともつかぬ、めくるめく恐怖の情景を、わずかな枚数に凝縮した乱歩初期の掌編である。
あらすじ
あれは白昼の悪夢だったのか、それとも現実の出来事だったのか――。晩春の生暖かい風が頬をなでる、蒸し暑い日の午後、「私」は、どこまでも真直ぐに続く、埃っぽい場末の広い大通りを歩いていた。ふと人だかりに足を止めると、一軒の薬屋の店先に立った蒼白い顔の男が、まるでうわごとのように、恐ろしい告白を口にしている。自分は妻を殺したのだ、そしてその死体を切り刻んで、この店先に隠しているのだ、と。男は、日覆いの奥を指さして、あそこに妻の死体がさらしものになっていると訴える。だが、そばに立つ警官は、それを狂人のたわごととして、へらへらと笑って取り合おうとしない。「あの男のいっていることが分りませんか。嘘だと思うなら、あの日覆の中へ這入って御覧なさい」――そう警官に告げてやろうとしながらも、「私」にはそれを実行するだけの気力がなかった。眩暈を覚えながら歩き出す「私」の行手には、どこまでも果てしのない白い大道が続き、陽炎が電柱を海草のように揺らめかせていた。現実と幻のあわいにひらけた、めくるめく恐怖の情景を、乱歩が凝縮して描いた掌編である。
登場人物
- 私 晩春の場末の大通りで、白昼の悪夢のような光景を目撃する語り手
- 男 薬屋の店先に立ち、妻を殺して死体を隠していると、うわごとのように告白する蒼白い顔の男
- 警官 男の告白を狂人のたわごととして笑い、取り合わない
冒頭部(原文より)
あれは、白昼の悪夢であったか、それとも現実の出来事であったか。 晩春の生暖い風が、オドロオドロと、火照った頬に感ぜられる、蒸し暑い日の午後であった。 用事があって通ったのか、散歩のみちすがらであったのか、それさえぼんやりとして思い出せぬけれど、私は、ある場末の、見る限り何処までも何処までも、真直に続いている、広い埃っぽい大通りを歩いていた。
「白昼夢」江戸川乱歩(青空文庫)
末尾部(原文より)
無神経な警官の肩を叩いて、こう告げてやろうかと思った。けれど私にはそれを実行する丈けの気力がなかった。私は眩暈を感じながらヒョロヒョロと歩き出した。 行手には、どこまでもどこまでも果しのない白い大道が続いていた。陽炎が、立並ぶ電柱を海草の様に揺っていた。
「白昼夢」江戸川乱歩(青空文庫)
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