花子(森鴎外)のあらすじ・登場人物
ロダンが見た日本の女の体
- 心理
- 文字数
- 4,950字
- 読了目安
- 約10分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
『三田文学』1910年7月号に載った短編。パリの彫刻家ロダンのアトリエに、日本人の女優花子が、通訳のために同伴した医学士に連れられて訪れる。ロダンは花子をモデルにしたいと申し出て、彼女の体の美しさを語る。異国の寄席に出ている小柄な日本の女の身体に、西洋の巨匠が見出す美を対照させた小品。
あらすじ
パリの旧邸を使ったアトリエで、朝の光の中、ロダンは仕事に向かう。そこへ興行師が、約束の日本人女優花子を連れて現れる。通訳をするのは、パストゥール研究所で働く若い医学士の久保田で、ロダンは「よく勉強していますか」と声を掛ける。花子は、見栄えのしない、子守あがりのような十七歳の娘だが、ロダンは、薄い皮膚の下に緊張した筋肉の躍動する体を気に入る。ロダンが海や舟の話を尋ねると、花子は取りつくろわない答えを返す。やがてロダンは、モデルになってほしい、着物を脱いでくれるだろうかと、久保田に頼む。久保田が話すと、花子はあっさり承知する。久保田が隣の書斎で待つ間、ボードレールの散文を読んでいるうちに、ロダンが呼びに来る。机の上にはスケッチが二枚できていた。ロダンは、花子の体は強さの美だと語る。
登場人物
- ロダン パリの彫刻家。花子をモデルにしたいと望む
- 花子 日本から来た十七歳の女優。小柄で筋肉の引き締まった体
- 久保田 パストゥール研究所に通う医学士。通訳として同行する
- 興行師 花子を連れて来る男
冒頭部(原文より)
Auguste Rodin は為事場へ出て来た。 広い間一ぱいに朝日が差し込んでいる。
「花子」森鴎外(青空文庫)
末尾部(原文より)
「人の体も形が形として面白いのではありません。霊の鏡です。形の上に透き徹って見える内の焔が面白いのです。」 久保田が遠慮げにエスキスを見ると、ロダンは云った。「粗いから分かりますまい。」 しばらくして又云った。「マドモアセユは実に美しい体を持っています。脂肪は少しもない。筋肉は一つ一つ浮いている。Foxterriers の筋肉のようです。腱がしっかりしていて太いので、関節の大さが手足の大さと同じになっています。足一本でいつまでも立っていて、も一つの足を直角に伸ばしていられる位、丈夫なのです。丁度地に根を深く卸している木のようなのですね。肩と腰の濶い地中海の type とも違う。腰ばかり濶くて、肩の狭い北ヨオロッパのチイプとも違う。強さの美ですね。
「花子」森鴎外(青空文庫)
名文
人の体も形が形として面白いのではありません。霊の鏡です。形の上に透き徹って見える内の焔が面白いのです。
彫刻家ロダンが通訳の久保田に語る言葉。形の奥に透けて見える内面こそが美しいという、ロダンの芸術観を鴎外が短く言い当てている。
肩と腰の濶い地中海の type とも違う。腰ばかり濶くて、肩の狭い北ヨオロッパのチイプとも違う。強さの美ですね。
日本の女優花子を素描したロダンが、その体を評する結びの言葉。西洋の型に当てはまらない「強さの美」を見いだす。
原文を読む
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