半七捕物帳 冬の金魚(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物
冬の金魚と宗匠の死
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 17,705字
- 読了目安
- 約35分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
岡本綺堂「半七捕物帳」の一編。初夏の赤坂で稗蒔売りを冷やかしていた半七老人が、近ごろは季節の物の出回りが早くなったという話から、江戸の末に一時流行った、寒中でも湯のなかで生きるという珍しい金魚の話を始める。弘化三年の冬、神田のお玉ヶ池に住む俳諧の宗匠松下庵其月のもとへ、出入りの道具屋惣八が怪しい芭蕉と其角の短冊と、雌雄で八両の「冬の金魚」の売り込みを持ちかける。半月あまりのち、宗匠は何者かに斬り殺され、若い女中は庭の池に沈んで見つかる。詩人や画家、剣客が住んだお玉ヶ池の土地柄、俳諧の宗匠と弟子たち、道具屋の商いなど、江戸の文人や趣味人の世界を背景に、半七が二つの死の真相を探る。
あらすじ
弘化三年十一月、神田お玉ヶ池の俳諧の宗匠松下庵其月のもとへ、道具屋の惣八が芭蕉と其角の怪しい短冊と、寒中でも湯のなかで生きるという雌雄の金魚の売り込みを持ちかける。十二月はじめ、其月が机の前で斬り殺され、十八の女中お葉が庭の池に沈んでいるのを、訪ねて来た惣八が見つける。物取りの跡はなく、お葉は主人の妾のような女と噂されていた。池をさらっても手がかりは出ない。惣八を問いただした半七は、金魚は其月を介して売れたが、すぐに死んで偽物だと其月に責め立てられ、売り主の元吉と板挟みになっていたことを知る。子分の松吉は、元吉がお葉の前の奉公先の甥で、お葉と通じていたと聞き込み、金に詰まった元吉がお葉の手引きで宗匠を殺したと見る。半七が通夜の席で、其月の高弟其蝶の右の小指に新しい傷を見つけて問い詰め、番屋へ引いていく。だが下手人はお葉だった。其月はひどく嫉妬深く、浮気なお葉にむごい折檻を加えていた。お葉は其蝶に言い寄り、偏屈な風流人の其蝶は困って、お葉を追い出すよう句に謎をかけて師に伝えたが、其月は二人の仲を疑ってお葉をいっそう責めた。お葉は小指を切った血で主人を殺すと書いた手紙を其蝶に送り、数日後に剃刀で其月を斬り殺した。駆けつけた其蝶に連れて逃げてくれと迫り、拒まれると剃刀を向けたが、刃物を奪われ、逃げる其蝶を追ううち、解けた帯に足を取られて池に落ちたのだった。其蝶は師の恥を恐れて黙っていたが、叱り置かれただけで済んだ。金魚の真偽は、ついにわからなかった。
登場人物
- 半七 神田三河町の岡っ引。自分の縄張りで起きた宗匠殺しを探る
- 松下庵其月 神田お玉ヶ池に住む俳諧の宗匠。四十六歳の独り身
- お葉 其月の家の十八の女中。千住の生まれ
- 惣八 道具屋。掛物や短冊のほか金魚の売り込みも持ちかける
- 元吉 冬の金魚の売り主。千住に住む本所の金魚屋の甥
- 其蝶 其月の高弟。俳諧に凝り固まった偏屈な二十六の若者
- 松吉 ひょろ松とあだ名される半七の子分
冒頭部(原文より)
一 五月のはじめに赤坂をたずねると、半七老人は格子のまえに立って、稗蒔売の荷をひやかしていた。わたしの顔をみると笑いながら会釈して、その稗蒔のひと鉢を持って内へはいって、ばあやにいいつけて幾らかの代を払わせて、自分は先に立って私をいつもの横六畳へ案内した。
「半七捕物帳 冬の金魚」岡本綺堂(青空文庫)
末尾部(原文より)
「それは確かに判りません」と、老人は云った。「なにを云うにも肝腎の其月が死んでしまったので、その売り先が知れません。だんだん探ってみると、どうも浅草の札差の家らしいのですが、こうなると先方でも面倒のかかるのを恐れて、一切知らないと云い張っていますから、どうにも調べようがありません。元吉や惣八が、人殺しにかかり合いのないことだけは明白ですが、金魚の方は、ほん物かいか物か、とうとう判らないことになりました。勿論、こんな変りものは買う方も悪いということになっていましたから、たといいか物を売り込んだことが知れても、重い罪にはなりません。冬の金魚も変りものですが、この宗匠も女中も人間のなかでは変りものの方でしょうね。こんにちのお医者にみせたら、みんな何とかいう病名がつくのかも知れませんよ」
「半七捕物帳 冬の金魚」岡本綺堂(青空文庫)
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