半七捕物帳 白蝶怪(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物
闇夜に舞う季節外れの白い蝶
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 77,281字
- 読了目安
- 約2時間35分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
岡本綺堂「半七捕物帳」に収められる中編で、半七老人の語りの形をとらない完全な三人称で書かれ、最後に一行、探索に当たった岡っ引が半七の養父吉五郎だったと添えられる番外編的な一作。文化九年の正月、小石川目白坂下の寺町で、歌留多会帰りの御賄組の娘二人が、闇夜に舞う季節外れの白い蝶を見る。蝶の舞い込んだ家には災いがあると噂されるなか、武骨な隣家の主人が正体を見届けに出て、謎の死を遂げる。音羽の組屋敷の若者と三河町の吉五郎の探索が交錯する、シリーズ中で最も長い一編。
あらすじ
文化九年正月、音羽の御賄組の娘お北とお勝は、歌留多会の帰りに目白坂下で闇夜に舞う白い蝶を見て寝込む。お勝の父黒沼伝兵衛は怪異を信じず、隣家の少年瓜生長三郎と正体を見届けに出るが、寺門前で傷ひとつない死骸となり、居合わせた火の番の藤助も姿を消す。黒沼家は家を保つため、白魚河岸の御納屋吉田の次男幸之助を急養子に迎える。ところが幸之助は病床のお勝をよそに隣家のお北と通じ、火の番の家で謎の女と密会していた。やがて幸之助は姿を消し、お勝は自害し、お北も家を出る。三河町の岡っ引吉五郎と子分の留吉は、旗本佐藤孫四郎の屋敷に潜む女お近を、旗本の隠居を殺して逃げた元深川芸者お亀と突き止めていた。白い蝶は、薬を塗った作り物に細い菅糸を付け、風の夜に火の番の娘お冬が飛ばしていたものだった。お北は江戸川に浮かび、吉五郎は佐藤家の中間を落として幸之助の隠れ家を知る。向島の植木屋で、姉を捜しに来た長三郎に幸之助が斬りかかり、かばったお冬が斬られて死ぬ。寺の住職祐道はお近の実兄で、長崎で覚えた邪法で恋の願いをかける妹の罪に耐えかね、自ら絞め殺していた。佐藤は自害し、藤助は八王子の山中で縊死したらしいという。
登場人物
- 吉五郎 神田三河町の岡っ引。のちの半七の養父
- 留吉 吉五郎の子分。白い蝶の一件を受け持つ
- 瓜生長三郎 音羽の御賄組の十五歳の少年。剣術に励む
- お北 長三郎の姉。白い蝶を見て寝込む
- 黒沼幸之助 白魚河岸の御納屋吉田の次男。黒沼家の急養子となる
- お冬 音羽の火の番藤助の娘。片目の少女
- お近 旗本佐藤孫四郎の屋敷に潜む年増の女
冒頭部(原文より)
文化九年――申年の正月十八日の夜である。その夜も四ツ半(午後十一時)を過ぎた頃に、ふたりの娘が江戸小石川の目白不動堂を右に見て、目白坂から関口駒井町の方角へ足早にさしかかった。 駒井町をゆき抜ければ、音羽の大通りへ出る。その七丁目と八丁目の裏手には江戸城の御賄組の組屋敷がある。かれらは身分こそ低いが、みな相当に内福であったらしい。今ここへ来かかった二人の娘は、その賄組の瓜生長八の娘お北と、黒沼伝兵衛の娘お勝で、いずれも明けて十八の同い年である。
「半七捕物帳 白蝶怪」岡本綺堂(青空文庫)
末尾部(原文より)
火の番の藤助は再び行くえ不明となった。彼を召捕ったならば、事件の真相が更に明瞭になるだろうと、吉五郎らもさまざまに手をまわして探索したが、遂になんの手がかりも無かった。それから三月ほどの後に、八王子の山のなかで彼に似たような縊死者を発見したが、死体はもう腐爛しているので、その人相もはっきりとは判らなかった。八王子は藤助の故郷であるが、どこへも尋ねて行ったという噂はきこえなかった。あるいは何かの係り合いになるのを嫌って、どこでも口を閉じていたのかも知れない。 この事件の探索に主として働いた岡っ引の吉五郎は、わたしが「半七捕物帳」でしばしば紹介した彼の半七老人の養父である。
「半七捕物帳 白蝶怪」岡本綺堂(青空文庫)
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